始業式の朝3
「——おはよう、光彰」
光彰はあくびを噛み殺す黎を見て、満足げに優しい笑みを浮かべた。特別扱いのほとんどを拒否している彼も、一つだけそれを利用して願い出た我儘がある。それは、同室の生徒は三年間黎だけにしてほしいというものだった。
「黎、やっと起きれたのか。ごめんな、俺今日は早く行かないといけなかったから」
自分以外の人間の大多数に興味を抱かない光彰も、愛してやまない人がいる。それがこの男、幼馴染の黎だ。彼が目の前に現れると、それだけで光彰の顔は綻ぶ。周囲はそんな彼の表情を見て、すかさずスマホを掲げて写真を撮り始めた。
光彰はいわゆる眉目秀麗と呼ばれるタイプで、同じ三年生だけでなく、他の学年にもファンが多数いる。滅多に見ることの出来ない彼の笑顔を少しでも多く写真に収めようと、生徒たちは色んな場所から撮影を始めた。
鳴り響く様々な電子音と共に、歓声が上がる。毎日が撮影会のようで、彼はまるでアイドルのような扱いをされていた。
「おー、大丈夫よ。お前がかけてくれてた目覚ましで起きられたから。ありがとうな。お前があれを掛けてくれて無かったら、多分起きられなかったと思う」
周囲のすべてのものから毒気を抜いてしまいそうなほどの無垢な笑顔で、黎は光彰に頭を下げる。それを見て、光彰はまたふわりと柔らかに微笑んだ。
「そうか。役に立てたなら何よりだ」
その顔を捉えようと、また狂ったようにスマホのシャッター音が鳴り響く。その異様な光景に、黎は顔を顰めながら器用に笑った。
「三年になってもお前の人気は相変わらずすごいなあ。今日も撮影会じゃないか。毎日同じ制服を着て、無愛想なだけの男を見てて何がそんなに楽しいのか……。俺には全然分かんないなあ」
黎が不思議そうにそう呟いていると、シンプルな電子音が彼の耳元で鳴り響いた。振り返ってみてみると、光彰がスマホを構えて黎の写真を撮っている。取り終えたデータを確認すると、ポツリと「可愛い」と零した。
「俺を撮る奴らの気持ちはわからないけれど、自分が可愛いと思う人間の写真を毎日撮りたいっていう気持ちだけなら理解できるぞ。俺だって黎の写真なら毎日撮りたいし、眺めていたいからな」
そう言って撮った写真を眺めては、また顔を緩めている。黎はそれを見ていると、何とも言え無い気持ちになってしまった。




