始業式の朝2
彼だけは多少の違反であれば目を瞑られ、多少の揉め事であれば揉み消される。光彰自身はそれに甘んじているかと言われればそうでは無いのだが、人と関わることに興味を持たないために異を唱えようともしなかった。
本人が何も言わないため、周囲はその扱いが正しいのだと思い込み、その待遇は日を追うごとにエスカレートしていった。
彼が今年度の寮長になることが決まったあたりから、教師が光彰に媚びる日が続いている。
「最上くん、おはよう。昨日も君のおかげで第一寮は平和でしたね。第二寮の寮長に君の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですよ」
「本当ですね。第一寮にはもともと優秀な生徒が多くいますけれど、それにしたって最上君の統率力が無ければ、これほど寮生活がまとまることもありませんから」
他人が聞けば身の毛もよだつ様なお世辞合戦を、教師たちは我先にと光彰の前で披露する。
しかし、当の本人は人の機嫌をとる人間の心理が全く理解できないため、彼らの意に沿った返答をすることも無い。今朝もいつものように
「それはどうも」
とだけ告げて、その場を去ろうとした。
そんな彼の背中へ、思いもよらない一言が突き刺さる。
「ねえ君、先生に対してその態度は失礼じゃないかい?」
その言葉と口調に、光彰は思わず足を止めた。
自分に対して何か意見を言う人間に久しぶりに遭遇したことで、思わず興味を惹かれたのだ。
光彰は、普段あまり人に声をかけられることが無い。かけられたとしても、そこに返答が必要ないような内容の事が多いので、まず声をかけた人を見る事もない。それが今日は様子が違うのだ。驚いて振り返ると、いかにも新卒の新米教師といった様子の男が、光彰を鼻息荒く睨みつけていた。
——あーあ、これはめんどくさいな。
彼が軽くあしらったところで、おそらくこの男はそれに対して大騒ぎをするだろう。しかし、まともにぶつかれば、今度は彼の方が管理職の者達から目をつけられ事になるかもしれない。
どう転んでも面倒なことになりそうだと思っている彼の前に、いつもより気だるげな様子の柳野黎が現れた。




