想いの深さ5
「しかし、あの先生結構図太い神経してんだね。あの人も、市岡先生と一緒に温田見くんの血だらけになってる姿を見てるんだろう? よくあんな風に笑ってられるなあ。俺は無理だよ。今でも胸の中ずんってしてんのに、そんな姿を見たら、とても落ち着いていられないわ」
そして、黎が光彰に「なあ?」と同意を求めると、そこには意外な表情があった。
「それは……、どういう意味だ?」
光彰は、それの何がおかしいのか、むしろ黎の言っていることの方が理解できないという顔で、目を丸くしている。
「——え? 俺なんか変なこと言ったか?」
その反応に、黎も同じように目を丸くした。
人に興味が無い光彰は、目の前で人が倒れていても、それほど動揺することは無い。それは、これまでに何度も見て来ていることから、黎もよく知っていた。
しかし、さすがに血だらけの人を見たとすれば、しかも、その人が亡くなっていたと知ったら、そして、それが生徒だとしたら……。多少の動揺くらいはするだろうと黎は思っていた。だが、どうやら光彰の中ではそれもありえない事らしい。本当に黎の言葉の意味がわからないようで、彼が少し狼狽えているような様子さえ見えていた。
「すまない、多分俺もあの先生と同じようになると思う。人が血を流して倒れていても、平気か平気じゃないかと聞かれたら、おそらく俺は平気だ。多少動揺はする。けれど、やるべきことをやってしまえば、あとは忘れるようにするだろう。ただ、傷ついているのが黎だったら、それは話が変わってくるだろう。おそらく発狂すると思うし、きっといつまでも立ち直れない」
そう言うと、辛そうに顔を歪めて何度も被りを振った。
「はあ? 何だそれ……。おい、変な想像で苦しむなよ、バカ。お前、俺を好き過ぎるだろ」
揶揄うようにそういうと、光彰はじっと黎の目を覗き込んだ。
「——何だよ」
たじろぐ黎に、光彰は意味ありげな笑みを見せる。
「別に」
そう言いながら、体の裏側まで見透かしてしまいそうなほどに黎を見つめ、彼がたじろぐと、それを見て嬉しそうにくすりと笑った。
そして、「確かに好きすぎる」と小さく呟く。
それを聞いた黎は、自分の体の奥の方でふわふわと何かがゆらめくのを感じ、その存在に奇妙な違和感を抱いていた。




