想いの深さ3
その声のする方を、何とは無しに見てみる。するとそこには、今朝彼がやや揉めた相手である、あの新任教師がいた。
彼の華やかな見た目に惹かれるのか、生徒が彼を取り囲んで騒いでいる。全寮制の生活で転校生も少ないここでは、新任教師はそれだけで一時的な人気者となり得る。それが見目麗しい若い教師であれば、尚更色めき立つのだろう。
しかし、本人は困ったように笑いながらも、勤めを果たそうと奮闘している。どうやら彼らは、始業式恒例のクラス写真の撮影をしているようだ。光彰は窓を開け、その様子を春の風に吹かれながらぼんやりと観察することにした。
「——人の動かし方が上手いな」
その教師が生徒を誘導する様子を見て、彼は感心していた。騒ごうとする生徒を上手くかわしながら、その動きのままに彼らを配置していき、少しの無駄も無い。細かい指示もよく伝わるのか、生徒もすぐに対応する。指示が届ききれずに置いていかれる子が出ない様にと、細かく気を配っていて、上手く全員を統率していた。
そして、撮影を終えると、すぐに次のクラスへと場を明け渡す準備を始める。仕事が迅速で的確に行えるタイプのようだ。
黎も彼の存在に気がついたのか、授業中にも関わらず後ろを振り「なあ」と小声で光彰へと声をかける。そして、教科書で顔を隠しながら、彼に耳打ちをするようにして、有能な新任教師について話し始めた。
「なあ」
そう言って首を傾げた拍子に、黒い髪がさらりと揺れる。彼が近づくと香る甘い匂いに、光彰は軽い眩暈を覚えた。
「なんだ、黎。読解が出来ないのか? そんなに難しく無いだろう?」
呆れたように教科書を突く光彰に、黎は慌てて手を振り、「そうじゃない」と言って笑った。
「訳ならもう終わったよ。英語だけは早いから、そんな顔して心配するなって。そうじゃなくて、あの先生のことなんだけどさ」
黎はそう言って、窓の外に見えている生徒の塊を指差す。そうして、教室へ引き上げようとしている教師を見つけると、その方へと指を向けた。
「あの人って朝お前と揉めた人だよね。今年うちの大学部を出たばっかりの新任教師らしいな。才見先生、二年一組担任、教科は物理。イケメンが物理を教えてくれるなら成績が上がりそうだって言って、二年の女子が喜んでるらしいよ」
黎は登校してすぐ、光顕との一件を代わりに才見に詫びようとして、職員室へと出向いていたそうだ。しかし、その時才見はおらず、代わりに教頭が彼に才見の人となりを彼に話してくれたらしい。




