想いの深さ1
「彼女が困ることって……。ああ、そうか。小野さんは第十一寮の寮長だもんな。規律違反をしてしまったら、他の寮生に示しがつかなくなるんだ。今は時計塔への立ち入りは禁止されてるもんな。二十時以降じゃなくてもそこにいるだけでアウトだ。温田見くんが小野さんを時計塔に誘うなんてことを、するわけが無いってことか」
ポンと手を叩きながら黎が頷くと、光彰は笑みを浮かべて顎を引く。
「そう。小野が困ると分かりきっているのに、温田見が時計塔での逢瀬という選択をするとは思えない。お互いにとっていいことが何も無いからな」
黎は光彰が誰かのことをそんな風に話すのは珍しいなと思いつつ、うんうんと何度も頷いた。
「確かになあ。そう言われればそうだ。温田見くんって、ちょっと前まで第三寮の寮長だったもんな。問題だらけの寮で彼自身も何度もペナルティ受けてるし、寮長が罰せられる辛さを誰よりも知ってるはずだよな。側から見ても理不尽だと思う扱いを受けていたし、温田見くんなら彼女にそんな思いをさせたくないと思うだろうな」
この学校の学生寮は、棟は男女で分けてはあるものの、その敷地は仕切られておらず、思春期の男女を預かっている施設としては珍しく、自由に行き来できるようになっている。ただし、門限だけは厳しく、夜は二十時以降の出入りは原則として禁止となっているのだ。
外部での練習が必要な習い事をしている者は、送迎を準備してその全てを届け出なければならない、もし突発的な理由で門限以降に出歩く場合は、寮監を務める教師の許可と、それ以外の教師の同行が必要となる。
そのどれも無い状態での夜間外出が認められるのは、寮棟以外では一階の共有スペースまでとなっており、その外に出るための許可は間違いなく下りない。そうなれば、逢瀬のために夜の時計塔に出向くなど、温田見と小野のカップルにとってはあり得ない事だろう。
「じゃあさ、逢瀬じゃ無いのに温田見くんが時計塔に行く理由って何? 懐かしむにしても夜は危険じゃないか。——あ。そういえば、小野さんはなんか騒いでるらしいな。最近の温田見くんは様子がおかしかったとかなんとかって」




