逢瀬の話4
「こら、危ないからやめろ。全く、自分で言っといて赤くなるなよ。温田見だってそりゃあ健康な高校生男子なんだから、そういう事があっても別にいいだろ?」
さらっとそう言い放った光彰に、黎は
「そ、そういう事ってどういう事だよ!」
と叫んだ。
小さな頃からずっと隣にいる黎でも、光彰との間でそういう話はする機会が無かった。しかも、黎には恋愛経験がない。どういう反応をしていいのかが分からないようだ。
この二年間の寮生活の中でも新しい出会いがあるわけでもなく、黎も光彰も恋人はいない。しかし、光彰には過去に交際経験があり、あまり抵抗が無いように見える。
「おい、どうした。俺は今そこまで慌てることは話してないだろう?」
僅かにその可能性の話をしただけにも関わらず、黎は必要以上に慌てていた。
光彰は慎重に彼を観察した。
今の黎は、夜の魘され方からも言える通り、どこかしら不安定なところがある。普段ならこのままこの反応を面白がる光彰も、今回はそれをすべきでは無いと思い、黎の腕を掴んだ。
『落ち着け』
黎の様子を注意深く観察しながら、深いところに言葉を届ける。彼の発するその『音』には、人の心に作用する力があるのだ。
それは勘違いや思い込みなどではなく、最上家後嗣に代々伝わる不思議な力が彼にあるからだ。この力は、特に黎——と言うよりは、柳野家の後嗣にのみ有効だ。
キンと音がしそうなほどに集中した視線を黎の目へと送り込む。そうして数回『落ち着け』と普段より数倍柔らかく深く響く声で告げる。それを何度か繰り返した。
『今はお前が出て来ていいときじゃ無い。眠るんだ』
そう繰り返す。しばらくして、黎はゆっくりと冷静さを取り戻していった。
「——?」
ふと我に返った黎は、今何をしてたのかを分かっていない様な様子を見せている。光彰はそれを見て、
「やっぱりな」
と呟いた。黎はそれを不思議そうに眺めている。
「いや、なんでもない。で、さっきの話なんだが。俺は温田見はそんなことはしないと思うぞ」
突然切り替わった話に、黎は僅かに面食らった。しかし、すぐに何の話であったかを思い出し、再度頬を赤く染めていく。
「え? 逢瀬の話?」
「そう、逢瀬の話。そういうことはしないと思うんだ。それをすると、小野も巻き込む事になるだろう? 温田見は小野をすごく大切にしてたからな。彼女が困るようなことはしないだろう」




