第二寮長 八木和希2
そして、光彰でさえ、彼のそういうところを好意的に捉えている。光彰が黎以外に興味を抱く人物としては、彼はその筆頭に当たるだろう。そのため、八木とはそれなりに口をきく仲ではあるのだ。
「何だ、八木。また誰かに伝言を押し付けられたのか?」
八木が光彰にこうして話しかけにくる場合、ほぼ間違いなく教師から光彰への伝言を頼まれている。彼らは光彰に用事があったとしても、直接呼び出すような事はしない。そんなことをして、理事長の息子の機嫌を損ねてはいけないと考えているからだ。
そういった場合は、職員室にいる生徒に声をかけ、光彰へと伝言をするように指示をすることが多い。今の所、その十中八九を八木が担っている。
しかも、そうやって伝えられる内容のほとんどが、光彰にとってはあまり関わりたくないような話であることが多い。そのため、光彰が八木へ返す言葉も、つい面倒だという気持ちが口調に現れてしまいがちだ。
今光彰が八木へ返した言葉も、やや口調が強くなっていた。全く非の無い八木に対して失礼な態度をとったことに気がつき、彼は自分の対応を恥じた。こういう場合の光彰は、驚くほど謙虚になる。八木に向かって躊躇いなく頭を下げた。
周囲で彼らのやりとりを見ていた生徒たちが、彼のその姿を見て騒めく。普段横柄極まりない光彰が他人に頭を下げる姿を見せるのも、黎以外では八木に対してくらいだろう。そういう意味でも、彼は一目置かれている存在だ。
「悪い、今の言い方は失礼だったな。お前に腹を立てているわけじゃないんだ。ただ、伝言される内容はいつも面白くないものばかりだからな。つい言葉がキツくなる。すまない」
光彰の謝罪を受けながら、八木はその誠実さに思わずふっと息を吐く。そうして
「大丈夫、わかってるよ」
と答えると、柔和な笑みを浮かべた。
彼のこの言葉に嘘はない。八木は、最上光彰という誤解を受けやすい人間の、数少ない理解者のうちの一人でもあるからだ。なぜかいつも攻撃的だと言われがちになる彼の言動の真意を、黎ほどではないにしろ、よく分かってくれている。
しかし、だからといって彼が善人かと言われるとそういうわけでもない。彼が伝言するたびにうんざりする光彰を眺めるのが何よりも楽しいのだという、変わった性質の持ち主でもある。そして、光彰もその事を認識していた。
それを差し引いたとしても、小さなことで一々咎めて来ない八木の鷹揚さは、光彰にとってとても居心地の良いものなのだろう。敢えてそれを公言することはないが、お互いが大切な友人としての位置にあるだろうと、密かに思い合っている。




