奇妙な現象7
才見は、視界を遮るほどに伸びた草を避けて、その中へと進んだ。草むらの中に落ちてこれほどの血液が溜まるという事は、温田見は着地に失敗してかなりの大怪我をしているという事だろう。焦りの色が、彼の顔いっぱいに広がる。
「え、なにこれ……。ねえ、ちょっと! なにがあったの? 教えなさいよ!」
戸田が金切り声を上げながら、才見にそう尋ねてくる。まだ彼自身も何も掴みきれていないため、あまり騒がれても答えようはない。それも、今し方無理難題を押し付けられた先輩に、さらに騒ぎ立てられていい気はしないだろう。
しかし、ここにいる職員は全員彼の先輩にあたる。これから先のことを考えれば、彼女のことも無碍には扱えず、才見は渋々今の状況を説明することにした。
「もしかしたら、時計塔から生徒が落ちたかもしれないんです」
「えっ? 落ちた? と、時計塔から?」
戸田はそう言って顔を顰めると、草むらから流れ出ている液体へと目を移す。その顔色が急激に蒼白へと変わった。
「こ、この中に落ちた生徒がいるってこと?」
そう言って、草の塊のようになった場所を指差した。
「おそらく」
才見は戸田にそう答えると、セイタカアワダチソウやハナニラの茂る縁石の近くへと進む。職員が日常的に利用している場所の割には全く手入れがされておらず、その草たちの中には才見の肩くらいまで伸びているものもあった。
あまりにも密集して生えているため、中を確認するためにそれらを掻き分けるようにして進んでいく。これほど多ければクッションになって助かっていてもいいはずなのにと思っていると、足元に制服のスラックスが見えてきた。
その足は長く、その先に続く上背もかなりのものがあった。先を辿ると、日常的に鍛えているであろうがっしりとした体格の男子生徒が、頭から血を流してうつ伏せに倒れていた。
才見が生徒の顔と名前を確認したのは、まだ一度だけだ。それでも彼のことは覚えている。
温田見は、人の記憶に残りやすい人物だった。穏やかで柔和な表情、大きな体、そして評判の良さ。それらが、顔と名前の一致を容易くさせていた。
「——先生、いました。彼が温田見くんで間違いないですよね? 一応先生も顔を確認してもらえませんか?」
才見は少し離れて眉間に皺を寄せたままの戸田へそう呼ばわり、確認するようにと頼んだ。すると戸田は目を泳がせ、迷惑そうに表情を歪めていく。




