奇妙な現象4
時計は煌びやかさが生かされてかなり大きな作りをしているが、内部は電子構造化されているため軽量な作りになっていて、塔自体はとても小さい。そこに、人が一人ギリギリ立てるくらいのスペースがある。
「あの、あそこってあの噂の場所ですよね。幽霊が出るっていう。どうしてあんなところに……」
危険極まりない場所であるにも関わらず、この学校には生徒があの場に立つことを咎める教師はいない。なぜなら、時計塔に近づく者はそれだけで問題児であり、関わる価値などないと判断されているからだ。
「それは僕にも分からない。でも、落ちたのは間違いないんだ」
「——分かりました。でも、どこに……」
戸惑う才見に、市岡も同じ表情を浮かべた。彼は足がすくんで動けず、温田見の姿を確認できていない。
「お、落ちていくところと落ちた音は聞いたんです。でも、姿は確認出来てません。情けない話なんですが、足がすくんで動けなくて……」
市岡はそう言うと、力の入らない足を拳で叩いた。嫌悪で自分を痛めつける市岡に、才見がすっと手を伸ばす。何度かぶつかり合ったであろう赤くなった拳をそっと握りしめると、小さく頭を振った。
「そうですか。落ちるところは見たんですよね。——それは怖かったでしょう。足がすくんでも仕方がありませんよ。誰だってそうなると思います。代わりに僕が見てきますから、もうご自分を責められるのはやめてくださいね。温田見くんがこっちにいないということは、向こう側に落ちたっていうことですよね?」
市岡の拳を解きながらそういうと、才見はその場に立ち上がった。そして、無人の第三寮の向こう側に見えている駐車場を指差す。
「そ、そうです! あの、駐車場と時計塔の間に舗装されてない通路があるんですよ。そこに落ちたのは間違いないです。ここまでドスンって音が聞こえてきましたから……」
そう言って市岡はまた顔を青ざめた。そして、自分を労るように、両手でその身を抱きしめるように包んで摩る。
「く、草が生えてるし、未舗装のところだから、もしかしたらケガしてるだけかもしれないんですけれど……。でも、音が凄かったんです。ドスンって、重くて大きな音がして。温田見くんは体格がいいから、衝撃も……」
「——っ、とにかく見てきます!」
才見は市岡の説明を聞き終わるまでもなく、駐車場と第三寮の寮棟の間にある細い通路へと走り出した。
「うまく落ちてれば骨折で済むだろうけど……」
そう独言ながら、建物の角を回った。




