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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
囚われの身
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排除されるべきもの6

 辰之助は、千夜が亡くなる少し前に、望まない相手からの好意を受け無いようにするために、二人が恋人関係を装っているという話を聞いていた。


 そして、お互いの利益のためにと言いながらも、それは光彰が千夜を思ってとった行動であることに気がついていた彼は、息子の優しさに深い感銘を受けていた。


 彼女と別れることになった時期には、その理由が千夜に好きな人が出来たからだという事も聞かせてもらっている。


 自分の事を後に回して、ただ千夜の幸せを願って行動していた彼を、当時の辰之助は、とても誇らしく思っていた。


 それからは、恋人同士ではなく従兄弟同士としての付き合いを続けていた。それは、親友という類のものに近い関係性だっただろうと彼は思っている。


 光彰が千夜といる時に見せる笑顔には、いつも嘘が無かった。辰之助は、年相応の素顔を見せる彼の姿を見て、千夜にとても感謝したものだった。


 このまま真っ直ぐに育ってくれれば、二人の将来に心配することはそうないだろうと思っていた。だが、その矢先に千夜は時計塔から転落している。


 彼女が時計塔から落ちたと聞いた光彰は、千夜が自殺などする訳がないと言い、その謎を解明するために清水田学園に入学すると言い始めた。それは彼の人生を左右する選択であったため、当初辰之助は猛反対している。


 しかし、光彰の意志は堅く、宣言通り清水田学園に入学してしまう。その少し前には、千夜との契約も交わしてしまっていた。


 その場を動けない生きた地縛霊となってしまった彼女を、最上の支配下に入れることで、行動の自由を与えたのだ。黎の体を依代として、自分の最後の記憶を探しに行く千夜を、常に側で見守って来たのだ。


 それほど大切にしている彼女のためだ、口では何と言おうとも、彼は千夜のためにこれからも最善を尽くすだろう。


 今の自分の保身のためということもあるが、何よりも、彼女の人生が否定されるような、バカバカしい幽霊騒動を早く収めたがっているように見える。


 辰之助もその親として、千夜自身の叔父として、光彰と同じように、彼女の力になってあげなくてはと強く思っている。


 そのために、子供では分からない、汚れた大人でなくては知り得ないことを、彼は八木の叔父と共に密かに探り続けているのだ。


「光彰、私も千夜さんの言う通りだと思うんだ。恵那くんは確かに腹黒い人間ではあるけれど、犯人では無いだろうと考えているよ。少なくとも実行犯では無いだろうね。ただし、司令塔である可能性は高いと思っているよ。千夜さんの言うとおり、誰かをうまく使って事故を起こし、不要になればその実行犯を排除しているんだろう。だから、実行犯が別にいるとしたら、それは恵那くんよりも社会的地位の低い人間だろう」


「校長よりも社会的地位が低い人間……、校内ではほぼ全ての職員がそうなりますね。そして、一番利用しやすいとしたら、市岡じゃないでしょうか。教務主任の市岡直樹。彼は過去何度も担任したクラスで問題が起きていて、それを自分で抑えられたことがありません。本来ならクビになってもおかしくないタイプの人間です。でも、恵那が彼を残したがったらしく、今も平然と教務主任という立場に居座っています。そのことを恩だと感じている市岡は、校長と教頭の下僕として生きることを選んだようですから」


 市岡は恵那に恩があるため、頼まれたことはほぼ断らないということで有名だ。どれほど急な用事でも、どれほど面倒なことであっても、校長からの頼みであれば喜んで引き受けるという。


「それはそうだろうね。私もそう思わざるを得ない事態に、何度か遭遇した事があるよ。けれど、温田見くんが落ちるのを目撃していたのは、市岡くんなんだろう? それなら、彼には犯行は無理だということになるよ」


「ああ、そうでしたね。あれが市岡の見た夢じゃ無い限り、彼に犯行は無理だということになりますね。いくらぼーっとしてるとはいえ、夢と現の区別はつくでしょうから……」


「夢と現の区別ねえ。あ、じゃあ、幻覚を見せられてたとしたら?」


 何かを閃いたかのように、千夜は突然そう言って目を輝かせた。


「——幻覚?」


 辰之助と光彰が声を揃えて千夜へ問いかける。すると、千夜は首を傾げた。


「そう、幻覚。ぼーっとしてるタイプの市岡みたいな人なら、幻覚見ても本物と区別がつかないかもしれないじゃない?」


「お前、ひどい言いようだな……」


 光彰はそう答えはしたものの、千夜の言うことを否定するだけの根拠は見つけられない。


 この事件が厄介なのは、千夜の言う通り、目撃した人間が見ていたものが現実に起きていることではなく、幻覚もしくは何かしらの映像であったかもしれないという可能性があるということと、事件が起きた時に目撃者となる人物がいつも一人か二人しかいないというところだった。


 虚偽の報告をしている者がいなかったとしても、目撃者が見ていたものが幻覚や映像であった場合、事実とは異なる証言をしていることになるのだが、それを確かめることが出来ない。


 そもそも市岡は、千夜が誘い込むようにして、温田見が自らの意思で落ちていくのを見たと言っている。


 幻覚で無かったとしても、見たものが幽霊だ。どちらにしても、霊を信じていないものにとっては、信憑性が薄い証言であるはずだ。


 しかも、その時本物の千夜は黎の体の中で眠っていた。それは光彰が確認しているので間違いない。


 加えて、その人物は今の千夜と光彰に繋がりがあることを知らないということもわかるだろう。千夜は光彰に仕えている状態でのみ自由に動き回れるため、彼に無断でそういう行動を起こすことは出来ないのだ。


 彼女が単独でも自由に動けるのだと思っているなら、その時点で誰かが生徒を転落するように裏で糸を引き、その罪を千夜に擦りつけていることがはっきりと分かるだろう。


 ただ、その両方を満たす者が多すぎて絞り込めないことが問題だ。


 条件に当てはまらないのは、光彰と千夜の関係を知っている黎と八木、八木の叔父、そして辰之助だ。逆に言えば、それ以外の人物は皆容疑者になり得る。

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