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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
囚われの身
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排除されるべきもの3

「——千夜さんが亡くなった事件に関わっている人が、今回の事件の犯人でもある。確かに一理あるね。千夜さんも時計塔から落ちて亡くなってるわけだから、一連の事件の被害者のうちの一人だと考えるのは、おかしな事じゃないと思うよ」


 辰之助はそう言うとほんの少しだけ口の端を持ち上げた。


 光彰は、父のその反応に胸を撫で下ろす。後嗣という役割を得てからも、全寮制の学校に通っている彼は、なかなか父の仕事の手伝いをする事が出来ずにいる。


 千夜のための調査とはいえ、この件を解決することは、最上家のためにもなる。内部で検証しなければ役に立てられない情報を、こうして提供する事が出来るのは、彼にとっても喜びの一つであった。


 二人にとって喜ばしい情報交換となったが、一連の事件で何人も人が亡くなっている以上、あまり浮かれるのも不謹慎に思えたのだろう。彼らはすぐに表情を引き締めると、お互いを見つめてゆっくりと頷いた。


 しかし、千夜はそうではなかった。ベッドに横たわったまま二人のやりとりを見ている彼女は、困惑の表情を浮かべている。


「でも、その人はどんな風にこの事件に関わってると思うの? 三年前に私が時計塔から落ちた時には、誰かが突き落とした形跡って無かったんでしょう? だから、私が悩みに耐えかねて自分から飛び降りたって言われてるわけじゃない? その人が私を悩ませてて、私が自分から飛び降りた……、そう思ってるってこと?」


 千夜が光彰に尋ねると、光彰は軽く肩を竦めて見せた。どうやら。そのあたりはまだ分かっていないらしい。


 その代わりに、辰之助が動きを見せた。テーブルの上に広げていた紙の資料のうちの一つを選んで手に取り、千夜の目を見つめて答えていく。


「確かに、君が落ちた後の警察の調べでは、誰かが突き落とした形跡は無いという事だったね。今君が意識不明なのは、頭を強く打っているからだ。頭部からの出血はかなりひどかったけれど、その割にはそれ以外には大きな外傷が無かった。そして、現場にもみあった形跡も無い。だから、君が自分の意思で飛び降りたという判断になっている」


「はい、そうですよね」


「うん。でも、ここで問題になるのは、君はなんらかの未練を残していて、生き霊となって残っているということだよ。君の性格からして、私たちにはそのことが最も驚いたことだったんだ。君なら、死にたいと思って死んだのなら、この世に思い残すことなどきっとないだろうと私は思っている。生き霊になってまで残るなんて、きっとしないだろう。それに、あのタイミングで自殺など選ぶわけがないとも思っている。だって、あの頃ようやく女性として生きられるようになっていただろう? その喜びを、そう簡単に手放すとは思えないんだよ。そこで、この資料なんだが……」


 辰之助は、先ほどから読み込んでいる資料を二人にも見えるように広げて見せた。その傍には、八木公樹探偵事務所と書かれた封筒がある。辰之助が目を通していたのは、どうやら八木の叔父からの報告書のようだ。


「警察に残っている書類を確認する限りは、やはり足を踏み外して落ちたという説が濃厚らしい。千夜さんが落ちた場所には、躊躇いの跡もなかったそうだ。ただ、それを否定出来るだけのものは何も無いそうなんだ。全ては憶測の域を出ていない」


 光彰は、テーブルに広げられていたその資料に目を通す。施錠されていない事が常態化していた入り口のドア、耐久性にも高さにも問題のあった柵、監視不足。経年劣化とその後の手入れの不足という、管理不足が指摘される報告書の山だった。


 ただはっきりと、誰かが何か細工をして、恣意的に人を落とした等の故意の事故では無いと書かれている。


 千夜は自ら命を断とうとして屋上に上がったものの、実際に飛び降りようとした際に恐怖を感じた。そこで、恐怖を和らげるために薬物を使用した。


 それに悪影響を受けて、老朽化した柵を乗り越えて落ちてしまった。そういう、自殺とも事故とも取れるような結論になっていた。


 それを読みながら、光彰はふとあることを思い出した。


「千夜が使用したとされる薬物はメスカリンとされている……。やっぱりそう思われてるんだな」


「——失礼な話よね。私、いくら記憶がないからって、薬物依存になるほど悩んだりしてないと思うのよ。だって、あの時期っておじさまが言うように、一番幸せだったのよ? なんでそんなものに頼ると思われるのか、理解に苦しむわ」


「——そうだな。俺もそう思っている。だから、もし使った形跡があるとするなら、誰かにそうするように言われたか、無理に摂取させられたかということになるだろう。その事に関する記憶もないんだよな?」


「うん、まあ、そうだね……」


 千夜は何か体を痛めつけられているかのように、苦しい表情を浮かべた。


「その薬物はメスカリン。原材料はペヨーテと呼ばれるサボテンであり、半減期は六時間——えっ?」


「——どうかしたの? 珍しいわね、あんたがそんな声出すなんて」


「いや、ほら。これ、ここを見ろ。『成分は過去に牡丹の朝露と呼ばれていたものと一致しているが、現在これを得るルートは存在しない』——どういうことだ? 父さん、『牡丹の朝露』という名前で売られていた薬物が、過去に存在したんですか?」

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