表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
囚われの身
104/111

排除されるべきもの1

「でも、犯人じゃない証明って出来るんですか?」


 黎のその問いかけに、才見は一瞬言いにくそうに唇を噛んだ。しかし、再び口を開くと、ある提案をし始める。


「出来ると言い切るのは難しいかも知れない。でも、学校の言う通りにこれまでの事件が本当に全て自殺だと言うのなら、その証拠を探せばいい。そうすれば自動的に最上くんは無関係になる。そして、もし事件だと言うのなら、真犯人を捕まえればいい。そして、事故だと言うのなら、その証明をすればいいだけだよ。僕はまだこの学校では新人だし、きっと出来ることは限られていると思う。それでも、生徒だけでそれをするよりは、職員である僕が関わればもっとやりやすいと思うんだよね。君たちが掴めない情報を仕入れることがあると思うし、出来る対応もあると思う。何より、僕は学校側の対応に納得がいってないんだ。答えをはっきりさせたい。それが僕個人の願いでもあるんだよ。だから、もしかしたら自己満足になるかもしれないけれど……。君たちと一緒に戦わせて貰えないかな」


 そう言うと、黎の目を真っ直ぐに見据えた。


 そして、再び頭を下げると、「頼む」と声を震わせる。その真摯な姿に、二人は胸を打たれてしまった。


 そして、そんな彼らの姿を、時計塔の上からあの「ニセ千夜」が、じっと彼らの姿を眺めていた。


 ◆


 オレンジ色の夕日が消えると、閑静な住宅街には、家族に帰宅を告げる声がそこかしこで聞こえ始める。小さな子供から大人まで、その声の主は様々だ。


 その多様さに、いつもの寮生活とは違うのだということを、光彰は痛感させられる。何よりも、黎がいない。隣にいたはずの幼馴染の姿が見えないことに、言いようのない寂しさを覚えていた。


 自室のベッドに腰掛けた状態で、窓の向こうに見えている寮の灯りをぼんやりと眺める。最上の家は、清水田学園とは目と鼻の先にあって、会いにいこうと思えばいつでも行ける距離ではあった。


 しかし、停学中は全ての学校設備の使用を禁じられる。そのため、黎がこちらへ来ない限りは、二人は顔を合わせる事もできない。にも関わらず、今はそれすら禁じられている。


 それは、彼らにとってとても大きな問題だ。依代(よりしろ)を主人の手元に置いておけないという事は、その体が危険にさらされるということと同義にあたる。


 万が一黎の体をタチの悪い地縛霊が借りようものなら、それをすぐに祓う事が出来ず、彼の命が危険にさらされる可能性があるからだ。


 それでも、千夜が黎の体にいてくれれば問題はないだろう。今光彰が心配しているのは、千夜が黎の意識の奥深くに潜り込んでしまっていて、なかなか外に出て来ようとしなくなったからだ。


 今の黎は、何も守るものが無い状態にある。なぜ千夜が出てこなくなってしまったのか、早急にその原因を調べて、一刻も早く戻って貰わなければならない。彼はとても焦っていた。


「そろそろ時間か」


 光彰はそう独り言ちると、ゆっくりとソファから立ち上がる。これから彼は、父の辰之助と一連の事件に関する話をすることになっている。


 この話は、他の家族には知らせる事が出来ないため、彼は辰之助と二人だけで話せるようにしてもらっていた。


 静かな部屋にその秒針の音を刻む壁掛け時計を確認して、自室を後にしようとする。そこで、もう一度窓の向こうの学園風景へと目をやった。


 そうして、どうか無事でいてくれという願いを込め、自らの耳の下を指の腹で優しく抑える。


「必ずそばに戻るからな」


 夕暮れに燃える時計塔に向かってそう誓い、犯人確保への決意を新たにする。そうして、自室を後にした。


 最上家の二階部分は、両親の寝室と父の書斎、母の趣味の部屋、妹たちの部屋、そして、近しい親戚だけが使用する客間が一室ある。


 近しい親戚とはつまり、柳野の一家だ。そして、そこには今、一人の宿泊客がいる。


 その客は、誰にもその存在を明かすことの出来ない人物であり、この三年ほど父と光彰以外は誰もこの部屋に近づけないようにしてあった。


 今から二人は、その部屋で今後の話をすることになっている。光彰は、その特別な客間のドアの前に立ち、しっかりと重ためのノックを二回、さらにそれを二度繰り返す。それが、父と二人だけで会う時の決められた合図だ。


「どうぞ」


 昼間に聞いたものよりも、さらに柔らかい声で父が応える。光彰は、不謹慎にも久しぶりに父と二人で過ごせることを喜び、顔を綻ばせた。


「失礼します」


 二階の角部屋に当たる、大きめの客間。そこには、大きな天蓋付きのベッドが一つと、大きなダイニングテーブル、八人がけのソファが一つずつ置いてある。


 それは、親戚が遊びに来た際に、ここで食事も出来るようにという配慮から置かれたものだった。だが、今ここに眠っている客人には、そのどれも必要が無い。彼女は、ずっと眠ったままだからだ。


「君はこちらの彼女に会うのは久しぶりだろう? ほら、声をかけてあげなさい」


 父はソファに腰かけ、コーヒーを飲んでいた。手元には何かの書類が置いてある。その紙面から目を離さずに、光彰を中へと促した。


「そうですね。ですが、霊体には毎日会っています。少々鬱陶しいくらいですよ」


 光彰は、うんざりとした調子でそう言うと、キングサイズのダブルベッドの中央に一人寂しそうに横たわっている女性の髪を撫でた。


 その髪は、白銀に輝いて長く、綺麗に手入れがされており、艶々と輝いている。白い肌に大きな瞳を囲む長いまつ毛。まるで人形が横たえられているようにも見えるような、人とは思えない美しさがあった。


 ただ、三年間点滴だけで生きているため、顔色はとても悪い。それが、彼女の深刻な状況を物語っていた。


「千夜。ここで会うのは久しぶりだな」


 光彰は横たわっている千夜にそう声をかけると、父から皮のケースに厳かにしまってある木製の楔を受け取った。


「すまないが、こちらへ戻って来てくれ」


 それを眠っている千夜の肉体の耳元に刺す。肉を突き進む抵抗はいつも想定外に大きいが、なんとかそれに耐えつつ、力を込めて奥深くへと差し込んで行った。


 しばらくすると、それは体に馴染むようにすうっと溶けて無くなってしまった。しかし、これは無くなったように見えるだけで、実際はそこにまだ存在する。抜く時は、主人が息を吹きかけた指でそこを叩けばいい。


「千夜さん」


 辰之助が声をかけると、千夜は顔を顰めた。瞼は何度もぴくりと動いている。そして、ゆっくりとそれを開くと、小さく呻き声を上げた。


「目覚めたか。この体はしばらく起こして無かったから、動かすのも大変だろう。気分はどうだ、千夜」

 

 その言葉に、深く刻まれた眉間の皺と同じくらい不機嫌な声が、その口をついて出てくる。


「——最悪。無理に連れ戻すなんてやめてよね」


 そして、理由はわかっていないが、おそらく今会いたく無いのであろう彼女の主人を、思い切り睨みつけていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ