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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
囚われの身
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依代2

 そこかしこに恵那の悪意が透けて見える。黎はそれを感じ取ったのか、その顔色を次第に蒼白に変えて行った。


「なんだよそれ。今までと全然違うな……」


 全てをあやふやにしていたものとは思えない恵那の行動に、黎はどう対処していけばいいのかが分からずにいた。言いようのない不安が、彼を苦しめていく。


 その隣に立ち、冷静に状況を確認していた八木が、黎の肩にポンと手を乗せる。そして、身を固くしていく彼を安心させようとしているのか、ふわりと優しい笑みを見せた。


「柳野、とにかく一旦部屋へ戻ろう。二十時までなら俺と一緒にいるようにしようぜ。そのあとは見回りついでに部屋に送るから。ほら、行こう」


 黎は、八木のそのその言葉に、ふっと力が抜けるのを感じた。知らないうちに、体の緊張はかなりのものになっていたらしい。


 おそらく、いつもであれば、今の言葉をくれていたのは光彰だったのだろう。それがない事で、彼は自分の心さえ上手くコントロールすることが出来なくなってしまっているようだ。


 寂しさに加えて、不安を自覚し始める。黎は、八木の好意に甘える事にした。


「分かった。悪いけど、そうしてくれるか? 今一人になると混乱しそうなんだ。それで——あの、警備員さん」


 黎は警備員に向かって申し訳なさそうに眉根を寄せると、深々と頭を下げる。そうして、なんの非も無い彼に思わず当たってしまった事を詫びた。


「すみませんでした。あなたは何も悪く無いです。黙っていても誤魔化しても、届出を見られていたのなら、どうせ俺たちがその時間に部屋にいなかった事なんて、どうせバレます。そこは気にしないでください。伝言について当たってしまったのも、本当にすみませんでした。この学校がおかしいんです。あなたは何も気にしないで下さい」


「そんな、いいんですよ。柳野さん、私の事を許してくださるのなら、あなたも何も気にしないでください」


 警備員は、そう言うと、申し訳なさそうに笑う。


 その隣で、八木は二人の謝罪合戦を見守り、それが終わるのを待ってから、約束通りに黎を第二寮長室へと連れ帰った。


 光彰は、黎が倒れて眠り込んでしまっている間に、寮を出ていた。目が覚めた時にそれを知らされた彼は、その処分が停学であった事を知ると、激しく落胆する様子を見せた。同時に、激しく憤ってもいた。


 普段から問題が起きてものらりくらりと交わし続けて何もしない校長が、こういう時にだけ対応が早いことに、どうしても納得がいかなかったのだ。

 しかし、その事に今更抗議をしても、もうどうすることも出来ない。


 黎は、葉咲の言葉を間に受けてしまい、幼稚な反撃をしてしまった事を悔いていた。彼が葉咲を取り合わなければ、おそらく光彰がうまくかわしていただろう。


 慣れないくせに反撃に出ようなどと思ったため、良くない結果を招いたに違いない。彼はそう思っていた。


 居た堪れない思いに襲われ、頭を抱える。そんな黎を励ますように、八木は彼の背中をポンと叩いた。


「ほら、そんなに落ち込むなって。溜め込まないで全部吐き出せ。俺が全部聞いてやるから。俺な、光彰からお前のことを託されたんだ。そばにいてやってくれって、頭下げて頼まれたんだよ。まあ、おそらくは虫除けなんだろうけれど。そこまで俺を信用してくれたんだろうから、お役目を果たさせてくれ。な?」


 八木は光彰とのその約束を守り、黎のそばにいると言う。黎は光彰の想いに触れ、やや救われたように感じた。


 ただ、まだ気持ちの切り替えがうまくいかないのだろうか、普段の彼ならば言わないであろうわがままを八木にぶつける。


「少しだけでいいから、一人になりたい。出来れば、時計塔へ連れて行ってくれないか?」


 さすがの八木も、それには難色を示した。


「いやいや、それはダメだろ。この状況で時計塔に行ったらダメなことくらい、お前なら分かるだろう? 昨日の件でお前にお咎めがないのは恵那の気分だと思うぞ。そんな中でもし何かあったら、お前だって停学に……、下手したら退学になるかも知れないぞ」


 全ての問題が時計塔に通じている以上、そう簡単にあの場所へ行かせるわけにはいかない。特に八木にとっては、黎を守るためにリスクとなるものは、出来るだけ減らしておきたいだろう。


 彼は光彰と黎を守るためにここにいる。今すでに一つのミッションを失敗している状態だ。これ以上の失態は、避けなくてはならない。


「別にいいよ。今の説明からすると、結局俺たちは何をしても停学に追い込まれてしまうような気がするんだ。それに、小野さんも言ってたけど……。高校なんて行き直せばいいんだし、俺は別に清水田学園卒みたいな肩書はいらない。俺だけだったら、ここへ通おうとも思ってないだろう。光彰との友人期間最後の思い出を作るために、そのためだけにここに来たんだからな。それが叶わないのなら、俺はここにいる必要は無いんだよ」


「友人期間最後の思い出って、来年になれば、お前と光彰が主従関係になるから、か?」


「そう。まあ、最初は違ったんだけどな。最初はただ、最上の後継者になる光彰と俺では、関わる人たちが変わってしまう。だから、高校生である今は、二人で思い出をたくさん残そうっていう話だった。でも、今は違うな」


「ああ、そうか。最近知ったんだったな。主人と依代になると、絶対的な主従関係になるってこと」


「うん。それも、依代として機能するときは、俺には記憶が残らないらしいんだ。だから、俺と光彰が一緒に仕事をしても、俺には思い出が残らない。それって、大したことは無さそうだけれど、ずっと続くと一緒にいないのと同じように感じると思うんだよ。そうなると、友情も薄れるだろうって話になって……。だから、今だけは一緒にいよう、たくさん思い出を作ろうって言って、前よりも切羽詰まった感じで、二人でいる努力をしてたんだ。その貴重な期間を、こんな風に取り上げられるなんてなあ……」

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