第十三章 融資交渉
研史はマルコーの車で浩をマルコー寮へ連れて行き布団に寝かしつける。そして幸栄たちの住むビル屋上の家へ行く。
幸栄が不動産屋さんに連絡したところ、自宅マイホームを取り戻すのに200万円ほど足りないそうだ。
幸栄、祐衣、祐真、研史と話をしていると玄関から声がする。
「幸栄さん」
麻子が来てくれた。
「どうぞ、中へ」
麻子は中へ入る。
「寮の平柳さんから聞いたわよ。大変だったみたいね。浩さんはもう大丈夫なの?」
「はい。今は寮で寝ていると思います。それから今、みんなで家と取り戻す話をしていて。でもあと200万円ほど足りないんです」
「幸栄さん、明日管理人の仕事休める?」
「大丈夫です。念の為に今日と明日、休み取ってありますから」
「明日、一緒に王子へ行きましょ!」
「王子?」
「私が昔、ピアノ教室やっていた時の教え子が王子の信用金庫で働いているの。明日電話予約してから行きましょ。ダメで元々よ」
幸栄と麻子は明日、王子の信用金庫へ行く事になった。
次の日、麻子から幸栄に電話がくる。王子信用金庫、ローン相談の予約が取れたそうだ。
麻子の車で東京城北信用金庫王子支店へ向かう。
場所はJR王子駅から200メートルほど東へ行ったところ。駐車場は店舗のすぐ隣にある。
車を停め、2人で銀行へ入ると行員の笹川優一が近づいてくる。
「諏訪さん、ご無沙汰しています」
「元気そうね。今でもピアノ、やっているの?」
「もちろんです。2ヵ月くらい前に妻と3歳の娘と3人で都庁へ行ったのですが、妻がスマホで動画を撮ってくれると言うんで、ストリートピアノ弾いちゃいました。たくさんの人の前で緊張したけど弾き終わってからみなさんに拍手してもらって。やっぱりピアノやっていて良かったです」
「うん。それは良かった」
「今日はお知り合いの方への融資のご相談という事ですよね」
幸栄は一歩前へ出て挨拶をする。
「金河と言います。本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします。諏訪さん、どうします?私と金河さん2人で話をするか。それとも」
「私と金河さんは元々お隣同士。家族みたいなものよ。私も同席します」
「分かりました。それでは奥へどうぞ」
3人は椅子に座り融資についての話し合いが始まる。
現在の家族状況、年収、勤続年数など。
一軒家を所有していてローン支払い中であったが、夫が株式投資に失敗して多額の借金を作り、一軒家を手放さなければならなくなった事。
株式を売却したが一軒家を取り戻すのにあと200万円ほど足りない事。
笹川は一通り話を聞いて、うん。と言ってから話を始める。
「まだ住宅ローンの残金が残っている事。ご主人が退院したばかりで今後、通常通りの仕事が出来るかまだ分からない状態である事。担保がない事。などを考慮すると正直難しいです」
幸栄は「やっぱり厳しいか」と、困った表情で下を向いてしまう。
そして笹川は会話を続ける。
「ただし連帯保証人を付けてくれるのであれば融資は可能です」
そして笹川は諏訪さんを見る。
「もちろん大丈夫です。私は今日、その為に来ました。旦那にもOKをもらっています」
「諏訪さんが連帯保証人なら問題ありません」
200万円の融資が成立するかと思われたその時、幸栄は顔を上げて言葉を発した。
「それは困ります!」
笹川も麻子も、「何で?」と思い、場の空気がやや重たくなる。
そして麻子は幸栄に自分の思いを伝える。
「幸栄さん、遠慮しなくていいの。私を頼ってほしいの!」
「麻子さん、ありがとうございます。笹川さんのおっしゃる通り、うちの旦那はまだ仕事に復帰出来るかは分かりません。今後、順調に借金を返せるかどうか・・・それに人様に保証人になってもらってまで借金をする。それは金河家の方針から外れます」
「ちょっと待って幸栄さん、金河家の方針か何か知らないけど、そうやって意地を張る事で、あのおうちは2度と取り戻せなくなるのよ。人に頼る事は悪い事じゃない。私はね、お隣さんは金河さんがいい。だから保証人になるのは自分の為でもあるの」
幸栄は口を嚙み締めながら下を向いている。それを見た麻子は、
「もう、どうすればいいのよ!優くん、この際、保証人なしで200万円貸しなさい」
「え~!それは無理です」
それから3人は言葉が出ず沈黙が続く。
するとスマホに着信音が鳴る。幸栄のスマホだ。かけてきたのは浩である。
「研史から聞いたんだけど今、銀行なのか?」
「うん。今ちょうど融資の話をしているところなの」
麻子は電話が浩からだと分かり幸栄に言う。
「幸栄さん、スマホ貸して」
「浩!あんた達の一軒家が取り戻せるかどうかが、かかっているの!いつから働けるのよ?」
「今、会社に来ている。とりあえずは働いているよ」
「え、もう働いているの?」
麻子の「もう働いている」の言葉を聞いて幸栄はスマホを受け取り、浩と話をする。
「あなた!もう大丈夫なの?」
「うん。所長と相談して取りあえずは体を慣らす為、作業場で修理をやっているよ。外回りはしばらくしてからだ」
麻子は、笹川を見る。
「もう旦那は働いているわ。優くん!保証人なしで融資をお願いします」
「え!でも、しかし・・・」
「優くん、信用金庫はね地域住民の為の銀行なの。困っている人がいるなら助ける。それが信用金庫」
「それは分かっているんですが、株に大金をつぎ込んで大損した人に保証人なしで融資となると・・・」
「金河さんはね真面目な人なの。1回だけ道をそれただけなの。それは私がいちばんよく分かっている」
「上司が何と言うか・・・とりあえずは融資課長に確認します」
「優くん、確かに上司に確認しますは正論よ。でもここは、自分が上司を説得して融資出来るようにします。優くんにはこの一言が欲しい。優くんは名前の通りいちばん優しい。でもね、いざという時、男は強引さも必要よ。
200万円くらい、私が貸したっていいのよ。でも幸栄さんは首を縦に振らないから。優くん、いや銀行員の笹川さん、お願いします」(麻子は頭を下げる)
「頭を上げてください。わ、分かりました。全力で上司を説得してみせます」




