第十二章 ミートフードサービス株売却
月曜日の朝、マルコー赤羽営業所。
研史は二本木営業所長に事情を話し午後から休みをもらう事にする。
「所長、これから中根工業へ機械の定期点検に行ってきますが、お昼までには戻ってきます。午後から有給休暇を取りたいのですが」
「何か用事があるのか?」
「金河さんの事なんですが、上がるか下がるか分からない株を持っていて株価を見るだけで以前、経験した株の大暴落がフラッシュバックして最悪また倒れてしまうかもしれないんです。証券会社勤務の伯父さんにも相談しましたがお金より体が大事です。これから病院へ行って金河さんの株、いっしょに売却しようと思います」
「分かった。金河さんの事、よろしく頼む。それから良かったら会社の軽トラ、使っていいから」
「はい。ありがとうございます」
そして研史は幸栄に電話をする。
「幸栄さん、自分は午後から病院へ行けます。金河さんといっしょにミートフードサービスの株を売却します」
午後から研史はマルコーの軽トラに乗り、赤羽中央病院へ行く。
病室には浩と幸栄がいた。幸栄はノートパソコンを用意していた。
研史は、浩にミートフードサービス株を売却するよう話す。
「金河さん、ミートフードサービスの株ですがかなり上がっています。これから更に上がるかそれとも下がるか・・・誰にもわかりません。株の事考えたらまた体調悪くなってしまうと思うんです。一番大切なのはお金じゃなくて体です。もう考えないで良いように今から全部売ってしまいましょう!」
浩は株の話をされて、思い出したように「あ、」と思う。
「今売っても借金返済額には足りないんじゃないのか?明日になったらもっと上がるかもしれない。でも、もしも明日下がっちゃったら・・・」
浩は息が荒くなり、手が震えてしまう。
幸栄は思った。このままだと浩はおかしくなってしまうと。そして決心したかのような鋭い表情で浩に言う。
「あなた!株なんかもう、やめちゃいなさい。このままどんどんおかしくなっちゃったらどうするの!パソコン貸して。私がやるから。研史君、どうやって売るの?パスワード?あなた、パスワード教えなさいよ!」
その頃、研史の叔父、藤波正和が赤羽中央病院正面玄関前に来ていた。
病院館内へ入り、受付で金河浩の病室番号を聞いて面会申請書を書いた。
すると正和のスマホ呼出音が鳴る。正和はまわりに迷惑がかからないようにいったん正面玄関に行き電話に出る。
電話をかけてきたのは正和の証券会社社員、部下の安西である。
「今、大口投資家からミートフードサービスへ大量買い注文がありました。これに追随して他の投資家からもミートフードサービスへ買い注文が増えてきています。このまま注文が殺到して高騰する可能性が大きいと予想されます」
「分かった。わざわざ、ありがとう」電話を切る。
「え!もう売却しちゃったかな?」
正和は急いで金河浩の病室へ向かう。病室は6階。エレベーター前に来るとエレベーターは2基あるが1基はちょうど閉まって上がっていったところ。
もう1基の前には10人くらいの人が待っている。エレベーターが1階に到着、エレベーター扉が開くと10人が中に入る。その時点でそこそこ満員ぽいが、その後ろから正和もエレベーターに乗る。重量オーバーのブザーが鳴る。先に入った10人はみんな正和に注目。
「えーい、仕方ない!」正和はエレベーターを降り、横の階段を使う。
ヒーヒー言いながら階段を上る。
6階606号室、金河浩の病室に到着する。
「はぁはぁ、どうも初めまして。研史の伯父の藤波と申します。いつも研史がお世話になっております。
(研史を見て)もう株は売ったのか?」
「いえ、これからです」
「よし!金河さん、ちょっと私の話を聞いてもらえませんか?
(研史を見て)株の売却はそれからでいいから」
正和は持参したタブレットパソコンを目の前に置く。ミートフードサービス株の株価を表示させる。
「おお!」
ミートフードサービス株は買い注文殺到。上がり続けている。
「信用取引で多額の借金を作ってしまったと聞いています。株は完全に自己責任です。誰のせいでもありません。例えば株式評論家がこの株が上がると言ったとします。それを信じて株を買った。実際上がらなかった。でも株式評論家のせいではありません。それを信じた自分のせいです。
私が研史に推奨している株の買い方は、50万円と決めたなら50万円だけ証券口座に入れます。そして50万円で1銘柄を買うのではなく分散投資、つまり2~3銘柄買う。
買う銘柄は、上がったら売るという前提で買うのではなく、配当金や株主優待品が充実している銘柄を選ぶ事。
そして買った株の中ですごく上がる株があるかもしれない。そうしたら、そこまで上がるんだったら売りますか。と売ればよい。研史にはそう教えています。
そして信用取引は上級者向けだから絶対に手を出すなと。
今回、金河さんは株をやる事によって大きな借金を作ってしまった。体調も悪くなってしまった。やり過ぎてしまいましたね。
株は最初にルールを決めてやれば、ぜんぜん怖いものではありません」
浩は正和の話に納得して数回うなずいた。
正和はタブレットパソコンの画面を見ながら話をしていたがミートフードサービス株の上昇が、やや鈍る。正和は株の動きを直視する。
「金河さん、今言った通り株は買うのも売るのも完全自己責任です。だから、だから・・・」
ミートフードサービス株、上昇から動きが止まり、売り注文が増え始める。
正和は、大きく息を吸いそして、ゆっくり吐く。
「私がこれから言う言葉は独り言です。単なる独り言ですから!」
正和は「今だ!」と思った。
「ミートフードサービス株、今すぐ全数売却!」
浩は首を縦に振りパソコンにパスワード(yukieno1)を入れ、全数成行売り注文。そしてエンターキーを押す。
パソコン画面には「全量約定」の文字が表示される。
今回の取引明細。
(売却価格5,476円―購入価格423円)×1,000株(2分割)―所得税773,866円―住民税252,650円=4,026,484円。
研史は、証券口座に入った現金を銀行口座へ移す方法を幸栄に教える。
そして浩は病院を退院する。




