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リーマン投資  作者: 黒﨑 弘
本編

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14/20

第九章 裏切り 3

 それから数日後、ブリディッシュテクニカルは自力での会社存続は無理と判断。会社更生法は経営陣が排除されるので役員は首を縦に振らない。民事再生法の手続きに入る。

 しかしこのロイドショックの最中での欠陥製品の発覚、隠ぺい問題。リコールでの大幅な赤字額が見込まれるなどの理由でなかなか債権者の協力が得られない状況であった。


 浩は買ったブリディッシュテクニカルの株は売れない。売ったら赤字が確定してしまう。

しかしこのまましばらく待っても株価が上がる見込みがない。

買う時は上がると思っていた。上がったら定期預金にお金を戻せばよいと思っていた。

だから家族に言わなくても大丈夫という気持ちがあった。

でも、もう家族に黙っているわけにはいかない。


 金曜日、いつものように家族4人揃っての夕食。普段ならビールが進む浩だが今日はグラスに注いだビールはぜんぜん減らない。

そんな浩を見て幸栄は、

「あなた、どうしたの、体調悪いの?」


「いや・・・あの、株なんだけど」


「下がっちゃったみたいね。しばらくはあなたの毎月のお小遣い減らして返済ね」


「・・・」浩は、ずっと下を向いている。

そして下を向きながら、

「幸栄、祐衣、祐真、ごめん、許してくれ」


「なに、毎月のお小遣い減らされるのが嫌だから謝っているの?あなた言ったわよね。男に二言はないでしょ」


「そうじゃないんだ。信用、信用取引」


「信用取引・・・?信用ってあなた、ひょっとして私たちに黙って信用金庫からお金借りて株につぎ込んじゃったんじゃないでしょうね?」


 浩はあまりの重大な過ちをなかなか家族に打ち明けられない。すべて話したら家族崩壊につながると恐れていた。


 流石に幸栄もおかしいと思った。それに、このままでは埒が明かない。

「ねぇあなた、今日は金曜日でしょ。研史君呼びましょうよ。研史君も株の事分かるでしょ。あなたが説明しづらいところは研史君に説明してもらうから。いいわね」

 幸栄は自分のスマホで研史の電話番号を表示させて祐衣に渡す。

「祐衣、研史君に電話して。たまにはうちで一緒に飲みましょうって」

「はーい」


 その頃、研史は自宅アパートで吉松家のお持ち帰り牛丼を食べながらゲームを始めるところであった。

ちなみに家庭用ゲーム機はずっとPS3を持っていた。バイオハザードシリーズが好きでバイオハザード6までプレイしたがそれ以降の7や8はPS4以降の機種がないと遊べない。PS5が発売されたら買おうと思っていたが、半導体不足などの理由で需要に供給が追い付かずいつも品薄状態。更に転売屋の買い占めがあり、買うことが出来なかった。

 PS5の品薄状態が解消されるようになった頃にはアイドルにはまり、アイドルのイベント参加。そしてアイドルのイベントボランティアまでやるようになり、ゲーム機で遊ぶのはかなりのご無沙汰である。

 本日、家電量販店でPS5の本体、そしてゲームソフトのバイオハザード7を購入した。

「念願のバイオハザード7。吉松家の牛丼、缶ビールもある。うん、最高の週末だ。よーし、ゲームやるぞー!」


 すると研史のスマホ、着信音が鳴る。出る。

「こんばんは研史さん。金河祐衣です」


「え、祐衣ちゃん。久しぶりだな」


「たまにはうちに飲みに来てって、お母さんが」


「え、今から行っていいの?」


「研史さん、忙しい?」


「いや、今ゲームやるところだけど、でもゲームは今日じゃなくて明日でもいいか。お言葉に甘えて行っちゃおうかな」


 研史はゲームの電源をOFF。とりあえず牛丼弁当を全部食べて、着替えをしてアパートを出る。

バス停へ向かう途中、精肉店あり。

手ぶらでは失礼。精肉店へ入る。

「ローストビーフを500gいや、料理はあるだろうから余ってしまっても困る。300gいや、5人だから少ないだろ。400gにするか」

ローストビーフを400g買って手土産にする。

バスに乗り金河宅へ向かう。

金河さんは最近、株価が下がって落ち込んでいるみたいだから明るい話をして盛り上げようと思う研史であった。


 金河宅へ着くと玄関で祐衣、祐真がお出迎え。研史は心の中で思う。

(祐衣ちゃん、祐真ちゃん。もうちょっと早く生まれていたらなぁ。でも、それでもしも、どちらかとうまくいって結婚とかになったとしたら金河さんは義理のお父さんか。あくまでも想像、想像。あはは)


「あれ?」

中へ入るとテーブルに座った浩はかなり落ち込んでいるようであった。

とりあえずローストビーフを出す。


「研史君も座って」

幸栄は研史にビールを注いであげる。


「1週間頑張って仕事して週末のビール、最高ですね!」

 この場を明るくしようと研史は楽しそうな声で言うが浩は笑わない。


「ねぇ研史君、信用取引って何?」


「え、信用取引・・・」

 ビールを飲む研史の手が止まる。


「うちの人が信用取引って言うのをやったみたいなのよ」


「俺の伯父さんが証券会社務めているんですが、その伯父さんに絶対手を出すなときつく言われている取引です」


「え、・・・詳しく教えてくれる?」


「例えば証券会社の口座に100万円入っているとします。それでもっとたくさんの金額を投資したい場合、証券会社から200万円くらい借りられるんです。すると300万円くらいの取引が出来る。それが信用取引です。もちろん借りるわけですから利息もかかる。制度信用取引だと期限内に返さなければならないです」


「金河さん、ほんとうに信用取引をやったんですか?」

 浩は下を向きながら首を縦に振る。


「ブリディッシュテクニカル1点買いですか?」


「いや、あと吉松家とミートフードサービスを少々。幸栄、祐衣、祐真、すまない」


「あなた証券会社からいくら借りたの?株資産が100万円ちょっとだっけ、200万円も借りたの?」


「500万円」


「・・・ちょっと、研史君の話からすると計算が合わないわよ」


「すまない。積立金を証券会社の口座に入れたんだ。だから500万円借りられた。

買った株が上がったら戻すつもりだった。

絶対上がるはずの株を見つけたんだ。でもロイドショックとブリディッシュテクニカル、アシスト自転車の欠陥発覚。欠陥隠ぺい。こんなに下がるなんて思ってもみなかった」


「積立金と証券会社から借りた500万円。いったいどのくらい株買ったの?」


「全部で700万円」


「えー!700万円」

700万円に祐真がいちばん驚いた。

「そんなに株買って大丈夫なの?」

 祐衣はとっても心配そうだ。


「金河さん、買い過ぎです!」

 流石に研史もびっくりだ。


 そして幸栄は、目を丸くして大きな声で言い放った。

「だいたい、絶対上がる株なんてあるの?なんで下がるかもって思わなかったの?

博打みたいに大金注ぎ込んでどういうつもり!なんか体調悪くなってきた。研史君、どうしたらいいの?」


「金河さん、返済期限のある制度信用取引ですか?」


 浩は首を縦に振る。


「証券会社から借りたお金は期日までに返さないとならないです」


「返せないとどうなるの?」


「現金が無いのだったら家を差し押さえられたりとか、あります」


「え!」


 それから重たい空気が流れ結局、気分的に楽しい酒は飲めず研史はアパートに帰る事となる。


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