第九章 裏切り 2
風呂から上がってベッド横のイスに座る。
(今日、これだけ下がったのだから明日はある程度戻るかもしれない。それにこれだけたくさんの株が下がったのにブリディッシュテクニカルは下がっていない。深刻になるな)
浩は自分自身でなんとか気持ちを落ち着かせようとする。そしてとりあえず就寝する。
金曜日、今日は会社内作業場で機械部品の修理・メンテナンス作業を行う。
10時の休憩時間、浩はスマホで株価をチェックする。日経平均株価は昨日終値より100円ほど下がっている。
ブリディッシュテクニカルは、一瞬上がったが徐々に下がってきている。どうなるか分からない。
12時のお昼休み、昼食を急いで食べて株価をチェック。ブリディッシュテクニカルは昨日終値より3円高い1,008円。
3時30分、日経平均株価終値は昨日より300円ほど下げる。ブリディッシュテクニカルは1,002円。
(明日以降、どうなるんだ?)
仕事を終え自宅へ帰宅。祐衣が玄関までお出迎え。
「パパ、早く早く!今日は給料日あとの金曜日でしょ。今日は燻製パーティー。祐真がおもしろい燻製を作ったんだよ」
ダイニングテーブルに行くと、祐真が出来立ての燻製をお皿に盛っている最中。
「ポテトチップスとかっぱえびせんの燻製作ったの」
「え~!それって美味しいの?」
4人はテーブルに付き燻製パーティーで夕食。
「ねぇパパ、私の作ったポテトチップスとえびせんの燻製食べてみて!」
幸栄もポテトチップスを1枚、えびせんを1本食べてみる。
「燻製の味が付いている。いつものポテトチップス、えびせんと違って、これはこれでいいわね」
浩もビールを飲みながら、祐真の作った燻製を食べてみる。
「普通のスナック菓子が、燻製することでいい香りが付いてビールのつまみにもってこいだな」
「今度は私もおもしろい燻製考えよっと」次回は祐衣が変わった燻製を作るらしい。
燻製は他にも、ソーセージ・鮭の切り身・ししゃも・ホタテなど。燻製を食べながら今日も旨いビールが飲めた浩であった。
土曜日、祐衣と祐真は買い物に出掛けている。家には浩と幸栄2人だけ。
リビングのソファーに座り、テレビを観ながらコーヒータイムだ。
テレビはワイドショーの放送が始まる。
経済評論家「ロイド証券の経営破綻により日経平均株価が下がっています。このまま日本経済が落ち込んでいくのではという懸念があります。もしも来週も株価が下がるのであれば、リーマンショックレベルの不況になる事も十分に考えられます」
浩は、塩田参法を信じている。しかし、あまりの経済の落ち込みに焦りを隠せないのであった。
月曜日、工作機械メーカーアマノへ行く。
栄高精密へ搬入予定の工作機械の設定などの打ち合わせ。お昼前に終了。
会社へ戻る途中、昼食の為、浩と研史は食堂に寄る。
本日の日替わり定食は、煮込み定食。美味しそうなので浩と研史は2人とも煮込み定食を注文する。
浩はスマホで株価をチェックする。
日経平均株価、昨日終値より約200円下がっている。
ブリディッシュテクニカルは、851円。
「え?」昨日の終値からマイナス151円。
ブリディッシュテクニカルをスマホで調べる。
ネットニュース「ブリディッシュテクニカルのアシスト自転車に欠陥。同社の開発したアシスト自転車の新システムはゼンマイを巻きアシストする方式であるが、そのゼンマイを巻き過ぎるとゼンマイが破損してしまうという欠陥が多数出ているとの事」
「ブリディッシュテクニカルの自転車部品に欠陥が出ている?」
「え、自転車部品って栄高精密さんで作っている部品ですか?」
「うん。しかもその栄高精密さんで使っている機械の修理に携わったのが俺たちだ」
「いや、でも欠陥が出た原因は俺たちじゃなくて設計時点の問題か、加工自体の問題か」
「ああ、でも俺が困るのは何が原因かじゃなくて・・・株の暴落だ」
昼食を終え会社へ戻る。
3時30分、株価をチェック。
日経平均株価は昨日終値より約400円下げる。ブリディッシュテクニカルは817円。
日経平均株価と同様、下がりはじめる。
(欠陥発覚とロイドショックのダブルパンチだ!)
先週のテレビ、経済評論家のコメント。
(リーマンショックレベルの不況になる事も十分に考えられます)
この言葉が重く圧し掛かる。
そして火曜日、水曜日、木曜日。株価は徐々に下がり続ける。ブリディッシュテクニカル株価は、554円。
その日の夜のテレビニュース「ブリディッシュテクニカルがアシスト自転車の欠陥を隠ぺいしていた事が週刊リアルの取材で明らかとなりました。
設計上のミスが分かった時点で設計を修正。リコールの届け出をせず、クレームがきた製品について修理をしていくとの方針を内密に決定していたとの事。
この事から消費者、株主から多くのクレームが寄せられています」
浩は手が震えた。株価はまだ下がるのか?
金曜日、栄高精密へ工作機械の搬入に行く。
浩は移動中の車内でスマホを見れば株価がチェック出来るのだが出来なかった。また下がっている気がして怖くて見られなかった。
工作機械の搬入が終わり、車で会社へ戻る。研史が運転。浩は助手席。浩は見ずにはいられない。恐る恐るスマホをチェックする。日経平均株価下落。
ブリディッシュテクニカル株は、株価の部分を指で隠し、少しづつ指を右へ、ずらしていく。マイナスの文字が見えた。やはり昨日より下落か。
浩は、(こんなはずじゃない、こんなはずじゃない!)ほぼ絶望に近い感情になる。
「なぁ研史、東京はさぁ、たくさんの人がいてスマホとか無線とかたくさんの電波が流れているからさ。だからさ、電波同士が干渉してバグッたりすると思うんだよ。このブリディッシュテクニカルの株価は違う。電波が干渉して間違った数字が表示されているんだ」
信号が赤で車は停止。すると右手に証券会社がある。電光掲示板で株価が表示されている。
浩は車を降りる。車の目の前、横断歩道を通り証券会社前へ行く。
研史は信号が青になり車を走らせるが、すぐ道路横のコインパーキングに車を停める。
そして浩のところへ向かう。
浩は下落したブリディッシュテクニカルの株価を見て、膝を付き手が震え下を向いたまま動かなくなってしまう。
「金河さん・・・」
研史は何て声を掛けて良いのか分からない。




