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14.不抜


Q、年頃の男女三人で、相部屋になることは可能か否か。


A、いいわけねぇだろうが。(学園長血涙)


 切子とリフィルのしょうもない提案はバッサリ却下されて、現在。

 一人になった僕は、男性寮の長廊下をキャリケース片手にえっちらおっちらと歩いていた。制服やら着替えやらゲームやらの詰まったモノを、切子に影から引っ張り出してもらったのである。


 あれからシスティアの元で複数の手続きをこなし、寮の前に到着したのが朝8時。

 ちなみに所感だが、寮と言ってもホテルかと見紛うほど立派な建物であり、エントランスから左手へ向かえば男子寮へ、右手へ向かえば女子寮へ通じる、言わば一体型の巨大建築であった。


 当然女子の二人とはエントランスでお別れしている。今頃は反対の女子寮で、仲良く荷解きでもしてるんじゃないかね。システィアの粋な計らいによって二人は相部屋になれたそうで、リフィルの経過が気になる僕としても、切子が側に付いてくれるのは安心できる話だ。


「にしても、立派な建物だねぇ」


 外観の時点で圧巻だったが、内部のこれまた広いこと。

 廊下一つとっても両手を広げた僕が三人は通れそうで、突き当りもずっと遠い。これが三階建てなのだから、流石は天下のトリニティといった具合だ。ちょっと贅沢すぎる気もするけど……小心者らしく、いかにも高そうな調度品は避けて進み、やがて自分へ充てがわれた部屋の前に辿り着く。


 部屋番号は1025。ドアの横にはネームプレートを差し込める枠組みがあり、二列用意されたレーンの下には『ラナハイン=ゼスペス』の名が嵌め込まれていた。


「ふー、きんちょ~……」


 切子とリフィルがそうなったように、トリニティの寮は基本的に相部屋らしい。 

 なれば僕にも相方がいるわけで、このラナハイン=ゼスペス氏こそ、今後の学園生活で長い付き合いになる同居人というわけだ。


 システィア曰く、僕と同じ中途編入生とのこと。


 横でそれを聞いていたリフィルが、訝しげな表情をしていたのは気にかかる―――しかし、目下の重要事項は彼と友達になれるかどうかだ。自慢ではないが、身内ばかりに囲まれて育ってきたので対人スキルに自信はない……それでも、同性の友人を確保するチャンス。第一印象こそ肝心だ。


 というわけでノックを試み、いざ鎌倉だぁ!


「たのもーーーう!」


 学生証でロックを解錠、ぶつかるような勢いでドアを押し開けると……ガランとした部屋には誰も居なかった。魂の気配も感じ取れず、どうやら留守であるらしい。

 考えてみれば、学生は既に学園へ向かっていておかしくない時間帯。廊下で誰ともすれ違わなかったのも、学生が皆寮を後にしていると考えれば辻褄が合う。


 ちなみに僕ら三人は、システィアから直々に今日の授業を免除されていた。トラブル続きだったし、初日は英気を養うようにとのこと。正味な話、時差がじわじわ効いてきたのか頭がぼんやりするし、丸一日調整に充てられるのは素直にありがたい。


 そんなこんなで、空振りした挨拶もなんのその。気を取り直し、抜き足差し足で内覧タイムと洒落込ませて頂く。別に僕の部屋でもあるので、忍ぶ必要はないけれど、何となく気分の問題である。


「うわ、立派なお部屋ですこと……」


 明らかに学生二人では持て余すだろう、広くてシックな部屋だ。


 寝相がどうであれ落ちそうにないほど巨大ベッドが二つに、これまた一目で高級だと分かるデスクが二組。仕切りのない奥の部屋にはダイニングテーブルとカウンターキッチンまで設えてあった。うむむ、世間一般の学生寮がどの程度かは知らねど、よもやこれが平均値ということはないだろう。


 まぁ、最悪パイプベッドのワンルームを想定していた身としては、嬉しい誤算である。せっかくなのでありがたく享受しよう。それより特筆すべきは―――


「……生活感がない」


 一通り内覧した結果、この部屋には最低限の物しか置かれていなかった。


 表のネームプレートがなければ住人がいるとは思えないほど、この部屋からは生活感が感じられない。極小主義者(ミニマリスト)なのだろうか? あるいは中途編入と聞いていたし、まだ来て日が浅いだけ……にしては、度が過ぎている気もする。


「んー、どんなヒトなんだろ……ゲームとか興味ないかな。色々持ってきたんだけど……」


 まだ見ぬ同居人の人となりを想像し、キャリーケースに詰めてきたボードゲームをいくつか引っ張り出そうとした、次の瞬間。


 ゴトリと、硬質な物音が背後で鳴った。


「………………あー」


 振り返った先。ついさっきまで存在しなかった物体が、異様な存在感を持って床に転がっている。


 それは、一振の刀だった。刃渡り4尺にも及ぶ大太刀であり、渦状に捻じくれた非緋色の鞘に収まっている。……嫌になるほど知っている姿だ。原初の記憶と共にあり、最近ではすっかり遠ざけていた、己の過去を紐解く手掛かり。


「出てきちゃったのか……」


〝これ〟は影の中に安置されていた筈。僕の影が物を飲み込むのはあくまで切子の能力であって、彼女と離れている現在、影の中には僕でも触れることは叶わない。


 そして、別れ際に影から取り出してもらったのは、あくまでもキャリーケース一つだけ。 

 つまり〝これ〟は、ひとりでに切子の能力を振りほどき、超えられない影の向こう側から、僕の傍らに転がってきたという事になる。


 額を抑えて深くため息をつき……まさか転がしておく訳にもいかないので、仕方なく刀を拾い上げる。昔からそうなのだ。捨てようと失くそうと―――故意であろうと過失であろうと―――必ず手元へ戻ってくる、気味の悪い忌刀。


 当時、七星山で拾われた僕が抱えていた唯一の私物であり、それ以前の記憶がない(・・・・・・・・)僕にとっては、過去へ繋がる重要な手掛かりでもある……いや、だった(・・・)。


 色々あって現在〝これ〟には良い印象がない。かつては修行にかこつけて、抜けない刃に過去を見ようと躍起になっていた時期もあった……最近はそれすらもしなくなったが。


「……………………あぁ」


 無意識で胡座をかき、両膝へ渡すように刀を乗せる。これなるは不抜(ふばつ)。抜けずの大太刀。

 引こうが捻ろうが、力ずくでその刀身を拝めた試しはない。懐かしい……毎日のように抜刀に挑み、結局は手が痛くて断念して、師匠に泣きついていた日々。あの頃は興味本位で、欠けている自分を埋めたくて、きっと、綺麗なモノが入っていると信じて……あれ、どうしてやめてしまったのだっけ。なにがふまんで、とおざけていたのだっけ。こんなにも、欲して、のどが、乾いているのに。


 左手が鞘に、右手が柄に掛かる。恐ろしいほど吸い付く、肉体が溶けて一体化したと錯覚するほど手に馴染む、頭が痛い、いたくなくなった、抜ける、いまなら、もとめろ、こじあけろ――――っ!!  


「―――い。…………おい。オイお前ッ! 何でもいいから〝それ〟から手ェ離せ! 血ィ出てんぞ!?」


「あ゛? え、はへ……あれっ?」


 誰かの声が聞こえた瞬間、赤黒くなっていた視界がバッと色彩を取り戻し。

 振り返った先で困惑している金髪のイケメンに間抜け声を上げた僕は、そのまま視界が裏返って仰向けで気絶した。


 



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