勇者、作戦会議をする。
「長らくお待たせしてしまって大変申し訳ありません。大分落ち着きました・・・って、なぬ!?」
気付けば、お花を摘みに行ってどのくらいの時間が経っていたでしょうか。
気持ちを取り直して、リリックのいる場所へと戻ってみるとあら不思議。
連れ去られたはずのゼイファーの姿が。
これで急いで助けに行かなくても良くなったと安心する反面、ゼイファーの横にはあのケバいギャルがいらっしゃる!
し、しかもゼイファーの腕にギャルの腕がいやらしくも絡んでいるではないですか!
こ、これはもしや。
「まさかゼイファー、連れ去られた後ちゃっかり・・・」
「ちゃ、ちゃっかりってなんだ!違うぞ!俺はこいつとは・・・」
「どうやら私たちの仲間に寝返ったようで、魔王討伐に協力してくれるらしいです。ついでに魔王を倒したら二人は結婚するらしいとのことですよ。私も先程話を聞いて驚いてしまいました」
「そうなの~。ゼイファー様と早く夫婦生活始めたいのよぉ。だからちゃっちゃとあの悪人、倒しに行っちゃいましょ」
「お前もついさっきまで悪人だっただろうが!つかなんで勝手に話進めてるんだよ!俺の気持ちは無視か、おい!」
まさか私がトイレで悶々としている間に、こんなに話が進展しているとは。
否定している割には絡めた腕を離すような素振りが見られないし、なんだかんだ言ってゼイファーもまんざらではないんじゃないか?
「・・・ゼイファー」
「ちょ、助けてくれグリモア!」
「お幸せに。結婚式には呼んでくださいね。ご祝儀は大して包めませんが」
「がっ・・・!」
私は生暖かい目で二人を見つめ、祝いの言葉を送ります。
途端にゼイファーの黒目が無くなり、魂が抜けたような表情を浮かべました。
つまりは放心状態。
そんなゼイファーに隣のギャル・・・もといメサイヤは、
「もう、気が抜けちゃうくらい嬉しいのね、ゼイファー様ったら・・・」
と、顔を赤らめ照れながら言っていたのでした。
・・・そんな訳で、ゼイファーの結婚相手も無事決まり、後は世界の平和の為魔王を倒すだけとなりまして。
急遽四人でこれからの作戦会議に入ります。
場所は街の宿屋の食道にて。
テーブルに二人ずつ向かい合わせに座り、夕食を摂りながらの作戦会議です。
最近まともな食事にありつけておりませんでしたから、何を食べても涙が出そうになるくらい美味しく感じます。
急で魔王城へと行くことが無くなった私達は、ここで一泊することになりました。
ダブル部屋二つ、と部屋を取ろうとするリリックを押しのけ、なんとかシングル二部屋にダブル部屋一つを取った私。
ダブルはもちろんゼイファー達のためです。
未だ放心状態から抜け出せないゼイファーをよそに、一緒の部屋でテンションの上がるメサイヤでした。
そんな二人をやっぱり生暖かな目で見つめる私です。
きっと今日は熱い夜になることでしょうね。
ああ、仲睦まじいって素晴らしい。
・・・ちくしょう、爆ぜろ!!
と、私の本音の叫びは置いておいて。
なし崩し的に魔王の側近だったメサイヤが仲間になったことで、一気に話は進んでいきそうな感じです。
現に、
「魔王城に行きたいなら、私が魔法使っちゃえば一気に中に入れるけど、どうする~?」
なんてメサイヤが言っちゃうもんだから、どうやら『びびでばびでぶー』の呪文は忘れてもいいようでした。
神竜さんのいた意味っていうね・・・。
これじゃあただ、村の人に迷惑を掛けていただけになってしまったじゃないですか。
神竜さんも罪作りなやつです。
あんなところで待たずに、私の前にさっさと現れていたらあんなことにはならなかったのに。
・・・と、作戦会議の話に戻りましょう。
「では、魔王は最上階の王の間にいる、と言うことですね」
「そそ。城入って真っ直ぐ歩いていった先にある螺旋階段上って行けばあるわよぉ。多分迷わないと思う。まあ手下の魔物が相当数襲ってくるとは思うけど、なんとかなるでしょ」
「・・・で、魔王との最終決戦で肝心なことをお聞きしたいのですが、魔王の弱点は何かあるんですか?」
「弱点?・・・ん~なんだろぉ。やっぱ魔王なだけあって隙がない男だから、ないかもしんない。倒すのは実力で、って感じ?まあでも、リリック程の魔力の持ち主なら勝てんじゃないの?戦いの時間は長引くだろうけどさ」
そう言い、メサイヤはフォークに刺した肉を口に入れた直後、ハッとした表情を浮かべました。
「・・・あ、もひかひたらあふかもひんない(もしかしたらあるかもしんない)」
「それは、どこですか!?」
リリックは身を乗り出し、メサイヤに問いました。
メサイヤはもぐもぐと口を動かして、ごくりと肉を飲み込むと、綺麗にネイルされた爪を見せつけるようにして私を指します。
「・・・勇者」
「・・・は?」
まさか私が弱点だなんて言われるとは思わず、驚いてガシャン、とテーブルに置いていた皿を落としてしまいました。
私は慌てて落とした皿を取ります。
運よく皿は空。そして割れもしませんでした。
3秒ルール発動の心配はありませんでしたが。
って、それはどうでもよくて。
・・・なぜ私!?
「ど、どういうことですか」
私は戸惑いながらもメサイヤに問います。
「どうもねぇ、好きみたいなのよ。・・・アンタのことが」
「「はあ!?」」
私と同時に同じ言葉を発して、声を荒げたのはリリック。
それにも驚いてしまって横を向くと、リリックはそれはもう恐ろしいくらいに怖い顔をしていました。
「好きって、どういうことですか。メサイヤ」
「うーん、良くは分からないんだけど、前の勇者いたじゃん?アンタのご先祖。どうもその勇者も女だったみたいで、その女のことが好きだったみたい。けど、その想いは通じなかった。で、今復活して子孫であるアンタに再度想いを馳せてるっぽい。昔叶わなかったぶん、今こそ・・・みたいな?」
「で、でも私は魔王となんて一度も会ったこともありませんし・・・」
「アンタは会ってなくても、あっちは見てるから。邪眼っていうの?透視みたいなやつ。あれでアンタのこと見てるよ。・・・まあ相当魔力使わないと見れないっぽいから、滅多には使わないみたいだけど」
メサイヤの言葉を聞き、気持ち悪くなって身体がぶるりと震えます。
邪眼って。透視って。
魔王はいつの私を見ていたの!?
まさか、服も着ずに全裸で寝落ちしたとことか、鼻ほじって飛ばしてたとことか、道端に落ちてたお金を誰もいないからってそのまま懐にいれたとことか!?
いやいやいやちょっと待て!
マズいぞそれは!
何を見た!私のナニを!?
「いやあああ!!気持ち悪いいいいい!!私のプライベートを盗み見していたとか、マジで気持ち悪いいいい!!」
私は思わず頭を抱えて叫びました。
リリックもまた拳を握りしめ、怒りをあらわにします。
「何て奴だ・・・!!私も見たことのないグリモアを、邪眼で隠れて見ていたなんて許せない!!・・・私も見たいのに!!!」
「なっ・・・!!」
・・・こんの、エロガッパめ!!!
「って、ワケでね、勇者を上手ーく使えば簡単に倒せるかもしれないってことよ」
そんな私たちをよそに、メサイヤは料理を頬張りながら冷静に話します。
私を上手く使うって、それは一体・・・。
「どうやって?」
「アイツの想いを勇者が受け入れたと見せかけて、油断したところをブスリと一発。・・・かな?」
「邪眼の話聞いて、平静保って会う自信が全くないんですがそれは」
「大丈夫よー、顔だけはいいから。顔だけは。外見からそんなストーカーまがいなことやってるようには見えないから、問題ないと思うけどねー」
アハハ、と笑いながら答えるメサイヤでしたが。
・・・顔の問題じゃないと思いますけど。
いくら格好よくてもストーカーまがいの男の気持ちなんか、嘘でも受け入れたくはないと思う私です。
出来れば時間がかかっても正攻法で戦って頂きたいと思うのですが(主にリリックが)
リリックも私がそんな危険な行為をするのは、反対するだろうし。
さすがにこの作戦はボツになると・・・。
「・・・手っ取り早く魔王を倒すためなら、その作戦はいたしかたないでしょうね。ここまで全くと言っていいほど勇者らしい働きも見せてませんし、ここはひとつグリモアに頑張って貰いましょう」
「はあっ!?」
まさかの発言に思わずリリックに対して声を荒げてしまいました。
リリックは、真剣な瞳で私を見つめています。
その顔はマジだ。
こいつ真剣で言ってる!!
「わ、私が危険な目にあってもいいって言うんですかっ!?もし死んだりしたらどうするんですか!悲しみますよ!?リリック、相当悲しみますよ!?そ、それでもいいんですかっ!?」
動揺してつい変な反論をしてしまう私に、リリックは少し笑いながら私にこう返します。
「大丈夫。死ぬ前に助けに行きますから、心配せずに作戦を遂行して下さい。私を信じて、グリモア」
「でも!!!」
「大丈夫」
何度反論しても、リリックの気持ちは変わらないようでした。
「嘘ぉ・・・。ちょ、ちょっと待って・・・」
思わず、弱音を漏らしてしまう私です。
そんな大役、私に務まるのでしょうか。
彼氏すら出来たことのない、この喪女に!
ああもう、どうしよう。
既に胃が痛くてリバースしそう。
「それにね、この作戦できっと・・・」
「・・・え?」
「・・・いや、それは後程」
リリックは何か言いかけて、そう言ったきり何も話しません。
思わず怪訝な表情で、リリックを見てしまう私。
リリックはそんな私を見ても、表情ひとつ変えずにただ私を見つめているだけでした。
一方メサイヤは相変わらず口をもぐもぐとさせ、パン!と手をひとつ叩き、話を纏めます。
「じゃあ、決まりね!決行は準備出来次第。決戦に向けて装備や道具を揃えたいだろうから、準備出来たら声をかけて頂戴ねぇ。さっさと始末しちゃって、平和な世界にしちゃいましょ」
そう言ったあと続けざまに「ごちそうさま!」と言うと、未だ放心状態のゼイファーを引きずって、部屋へと戻って行きました。
・・・って、しっかりしろ!ゼイファー!!
いつまでも魂抜けていてどうする!?
一大事なんだぞ!?
突然、我が身に降りかかったまさかの展開。
・・・私、これからどうなってしまうんでしょうか・・・。




