表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

14

「――近衛兵! 今すぐこの狂った女と、その魔物を捕らえよ!」


 ライナルト王子の怒声が、闘技場の回廊に木霊する。

 抜剣する兵士たち。その切っ先が、まだ息を乱しているヴァンと、彼を抱きしめる私に向けられた。


 周囲の生徒たちは、恐怖で顔を引き攣らせて後ずさる。聖女が「浄化」に失敗し、あろうことか「闇」に押し返された。この事実は、彼らにとって世界の終わりにも等しい衝撃だっただろう。


「罪状は何かしら、殿下? 私の騎士が、あなたの息のかかった騎士を正々堂々と叩き伏せたこと? それとも、私の愛があなたの聖女様の『善意』より強固だったこと?」


 私はヴァンを支えながら立ち上がり、冷ややかな視線で王子を射抜いた。


「ふざけるな! セフィリアの術を跳ね返したあの不気味な力……あれは凶つの魔女の魔法だ! エルフレイダ、貴様は我が国の至宝である聖女を傷つけ、禁忌に触れた。これは国家反逆罪にも相当する!」


「魔女? 心外ですわね。心当たりもない。勘違いも甚だしいですわね」


 私はわざとらしく、ふふっと笑い声を漏らした。


「あれはただの『拒絶』ですわ。ヴァンは、彼女の差し出す偽りの救済よりも、私の隣にある真の救済を選んだ。ただそれだけのこと。……それに、殿下。先に禁忌の術――『魂の浄化』を公衆の面前で行使なさったのは、そちらの聖女様ではありませんか?」


「それは、彼を救うための慈悲で……!」


「許可なく他人の魂を浄化書しようとすることが、いつから慈悲になったのかしら? 私の騎士に手を出した無礼、そして学園の規律を乱した責任。……それらを棚に上げて私を裁こうだなんて、王族の看板が泣いていますわよ」


────


 王子の顔が屈辱で真っ赤に染まる。

 だが、彼が次の命令を下そうとした瞬間、廊下の奥から重厚な足音が響いてきた。


「――そこまでだ、ライナルト殿下」


 現れたのは、私の父。この国の影の支配者、ジェラルド・ド・ランヴォール公爵だった。

 彼の背後には、完全武装した公爵家直属の私兵たちが、王宮近衛兵を包囲するように展開している。


「公爵……!? なぜここに!?」


「娘の晴れ舞台を見に来るのは親として当然のこと。……それより殿下。我が家の騎士が勝利したというのに、なぜ剣を向けられているのか、納得のいく説明を頂きたいな」


 父の放つ圧倒的な威圧感に、王子が気圧される。

 父は、跪くヴァンの姿を一瞥し、それから私を見て、微かに口角を上げた。


「……エルフレイダ。お前が言った通り、この青年は『原石』だったようだな。聖女の魔力を力技でねじ伏せるとは、私の予想すら超えている」


「当然ですわ、お父様。私の選んだ『推し』ですもの」


 私は父の加勢を得て、さらに一歩、王子へと歩み寄った。


「殿下。今この瞬間をもって、私は学園を退学させていただきますわ。……こんな、実力よりも血筋と『光の押し売り』が優先される狭苦しい場所、もう飽き飽きですわ。……ヴァン、行きましょう。あなたの本当の舞台は、ここではないわ」


「……はい、お嬢様」


 ヴァンが立ち上がる。その瞳には、もはや一欠片の迷いもなかった。

 彼は私の手を取り、跪いてその甲に唇を寄せた。


「あなたの行く場所が、私の戦場です。……たとえそれが、王宮を敵に回す道であっても」


────


 私たちは呆然と立ち尽くす王子と聖女を背に、堂々と闘技場を後にした。

 馬車で学園の門を出る際、遠くで「断罪」を告げるはずの鐘が鳴り響いたが、私にはそれが、新しい時代の幕開けを祝うファンファーレのように聞こえた。


 馬車の中。

 ヴァンは私の隣に座り、疲労困憊の様子で私の肩に頭を預けてきた。


「……疲れました、お嬢様。……本当に、あの方の光は……居心地が悪かった」


「ええ、よく頑張ったわね、ヴァン。……でも、これで皆は知ったわ。あなたが私の騎士であり、誰もあなたを奪えないということを」


 私は彼の銀髪を優しく撫でる。

 ゲームのシナリオは、今この瞬間、完全に崩壊した。

 悪役令嬢の私は処刑されることもなく、モブ騎士のヴァンも聖女に救われることはなかった。


 けれど、これからが本当の「悪役令嬢」の本領発揮だ。

 王家は公爵家を危険視し、聖女派は私たちを「悪魔」としてきっと糾弾し始めるだろう。


「お嬢様……。私は、あなたの望む『推し』になれていますか?」


 ヴァンが、不安げに私を見上げて問う。


「最強よ。……でも〜、そうね。まだまだ足りないかしら。……あなたは、私と一緒にこの国の頂点に立つの。……そして、私たちが一番の主役として、この世界ごと、最高に塗り変えていきましょう」


 私は彼の唇に指先を当て、悪戯っぽく微笑んだ。


(――ああ、尊い。逆境になればなるほど、ヴァンの美しさが際立っていくわ。……これからの政治闘争も、権力争いも、全部ヴァンのための『最高の舞台装置』にしてあげる!)


 私、公爵令嬢エルフレイダの愛と執着による「世界改変計画」

 学園という小さな籠を飛び出した「悪役令嬢」と「モブ騎士」の快進撃は、ここからきっと加速していくわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ