表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/164

バルディオス 治療院

◾️治療院・待機室

朝。

窓から差し込む光が、静かに床を照らしていた。

だが――

部屋の空気は、重いままだった。

誰も、口を開かない。

アッシュは椅子に腰掛けたまま、俯いている。

目の下には、濃い隈。

一睡もしていないのは明らかだった。

拳は、強く握られている。

震えを、押し殺すように。

ハイロは壁にもたれ、腕を組んでいる。

目は閉じているが――

眠っているわけではない。

ゴンドーは椅子に座り、じっと前を見つめていた。

誰もが、同じだった。

受け入れきれていない。

だが、現実から目を逸らすことも出来ない。

その時――

扉が開く。

軽い足音。

場違いなほどの空気。

「……おいおい、マジかよ」

飄々とした声。

チャップだった。

その後ろにソルベ。

状況を聞いて来たのだろうが――

その態度は、あまりにも軽い。

顔を見た瞬間。

ハイロの目が、開く。

次の瞬間には――

「……てめぇ」

一気に距離を詰める。

胸ぐらを掴み上げる。

「……っ!」

チャップの身体が壁に叩きつけられる。

「てめぇが……!」

声が低く、震える。

「コイツらを連れ回さなければ……!!」

怒りが、剥き出しになる。

今にも殴りかかりそうな勢い。

だが――

「やめろ」

低い声。

ゴンドーの手が、ハイロの腕を掴む。

びくともしない重み。

「……っ」

ハイロが睨む。

ゴンドーは静かに言う。

「ここに来たのはこいつらだ」

一拍。

「……それに」

視線を落とす。

「参加させた俺らにも責任はある」

その言葉は、重かった。

ハイロの力が、わずかに緩む。

「……チッ」

舌打ち。

だが――

手を離す。

チャップの身体が壁から離れる。

服を整えながら、鼻で笑う。

「けっ……」

不機嫌そうに。

「弱い奴がノコノコ戦場に出るから、痛い目にあうんだよ」

その一言。

空気が、凍る。

「……てめぇ」

再び、ハイロの怒気が膨れ上がる。

今度こそ――

踏み込もうとした、その時。

「やめろ」

静かな声。

全員の視線が、そちらへ向く。

治療院の奥。

扉が開いていた。

ロードランが立っている。

顔色は、良くない。

だが、しっかりとした足取りで歩いてくる。

その表情を見て――

誰もが、言葉を失う。

「……どうなんだ」

ハイロが低く問う。

一瞬の沈黙。

ロードランは、ゆっくりと口を開いた。

「……ヒルデとシンは」

喉がわずかに動く。

「一命は取り留めた」

その言葉が、落ちる。

「……っ」

空気が、わずかに揺れる。

アッシュの肩が、びくりと震えた。

ハイロは、目を伏せる。

ゴンドーも、小さく息を吐く。

助かった。

それは確かに――

救いだ。

だが。

誰一人として、笑わない。

喜びきれない。

当たり前だった。

失ったものは――

あまりにも大きい。

アッシュは、ゆっくりと顔を上げる。

震える声で、ただ一言。

「……そうか」

それだけだった。

安堵も、後悔も、怒りも。

すべてが混ざったような声。

朝の光は、変わらず差し込んでいる。

だが――

その光は、誰の心も照らしてはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ