バルディオス シン
「――ッ!」
鈍い音。
キラーマンティスの鎌が、振り抜かれる。
「がっ……!」
ヒルデの背中を、深く切り裂いた。
鮮血が散る。
身体が前に崩れ地面に倒れ込む。
「……っ、く……」
息が詰まり視界が揺れる。
その姿に――
「これで終わりかな」
セイルが、ゆっくりと歩み寄る。
足取りは変わらない。
余裕すら感じる。
「ヒルデッ!!」
シンが叫ぶ。
地を蹴り一直線に駆ける。
だが――
「行かせん」
ガリューンが立ち塞がる。
「どけぇッ!!」
シンが振り抜く。
渾身の一撃。
だが受け止められる。
止められる。
「……無駄だ」
その一言。
それが――
引き金だった。
「……っ……!」
ドクン。
心臓が、強く打つ。
ドクン、ドクン、と。
異様な鼓動。
「……なんだ……これ……」
息が熱い。
身体の内側から、何かが“湧き上がる”。
血が沸騰するような感覚。
視界が、研ぎ澄まされる。
「……っ……!!」
踏み込む。
その瞬間――
地面が抉れた。
「――なにっ!?」
ガリューンの視界から、シンが“消える”。
速い、という次元じゃない。
見えない。
次の瞬間――
衝撃。
「ぐっ……!」
ガリューンの身体が宙を舞う。
突進。
いや、それ以上。
踏み込みの風圧だけで、叩き飛ばされた。
木々が揺れる。
地面が裂ける。
「……!?」
セイルの目が、わずかに見開かれる。
その先――
シンがいた。
既に、キラーマンティスの懐に。
「――ッ!」
蹴り。
爆発的な脚力。
キラーマンティスの身体が吹き飛ぶ。
そのまま――
背後の木へ。
「……ッ!!」
ドゴンッ!!
衝撃。
木に叩きつける形で――
キラーマンティスの頭部が、潰れた。
沈黙。
一瞬。
そして――
シンは止まらない。
そのまま木を蹴る。
「――次だ」
低く、鋭い声。
一直線に、セイルへ。
「……!」
セイルが即座に魔法陣を展開する。
転移。
回避。
そのはずだった。
だが――
「……!」
シンの短剣が、振り下ろされる。
その瞬間。
セイルの姿が“消える”。
空を切る――
はずだった。
次の瞬間。
少し離れた位置に、セイルが現れる。
着地。
だが――
「……っ」
その身体が、ぐらつく。
左肩から、右腹部にかけて――
深い切り込み。
血が、流れる。
「……は……?」
セイルが、初めて動揺した声を漏らす。
転移の“瞬間”。
そのわずかなタイミングを――
斬り抜かれていた。
膝が、地面に落ちる。
「ぐっ……!」
呼吸が乱れる。
視線が、シンへ向く。
そこにいるのは――
先ほどまでとは、別物だった。
静かに、立っている。
熱を帯びた身体。
揺らぐ空気。
「……お前……」
言葉が出ない。
その異変を――
ヒルデも、見ていた。
「……まさか……」
血を流しながら、かすれた声で呟く。
「武技……」
信じられないものを見る目。
「あんな子が……」
戦場の均衡が――
その一瞬で、崩れた。




