バルディオス 荷車
板の奥から現れた荷馬車は、軋む音を立てながらゆっくりと外へ出てきた。
前を歩く男が、一度立ち止まる。
視線を左右へ走らせる。
路地の奥、屋根の影、建物の隙間――
一つ一つを確かめるように。
「……」
誰も動かない。
息を潜める。
やがて男は小さく頷き、そのまま歩き出した。
荷馬車もそれに続く。
進む先は――
「……正門方向だな」
ハイロが低く呟く。
「外に出す気か」
アッシュが眉をひそめる。
視線は外に釘付けのまま。
「どうする?」
小声でヒルデに問う。
一瞬の間。
ヒルデの視線が、荷馬車と“消えた壁”を行き来する。
思考は速い。
そして――
「二手に分かれる」
迷いなく言った。
全員の意識が一斉に向く。
「尾行班と、ここを調べる班」
端的な指示。
「どっちも捨てられない」
ロードランが小さく頷く。
「同意だ」
ヒルデは続ける。
「荷馬車の行き先は最優先で押さえる」
その目がシンに向く。
「私が行く」
静かだが、強い意志。
「シン――ついて来れる?」
一切の迷いがない問い。
試すようでいて、選んでいる。
シンは、口元を少しだけ上げた。
「任せとけ」
軽い調子。
だが、目は真剣だ。
「こういうのは得意分野だ」
「いいわ」
ヒルデが短く頷く。
すぐに視線を戻す。
「残りはこっち」
消えた壁――今はただの板に見える場所へ。
「内部の構造を探る」
「戦闘の可能性は?」
ハイロが聞く。
「高い」
ヒルデは即答した。
「だから――」
視線がロードランへ。
「こっちはあなたに任せる」
「了解」
ロードランは静かに頷く。
状況は理解している。
「前衛は……」
そのまま視線が流れる。
「アッシュ、ゴンドー、ハイロ」
名前が並ぶ。
「任せた」
「……ああ」
アッシュが低く応じる。
ゴンドーは無言で斧を軽く持ち直す。
ハイロも小さく頷いた。
「深追いはするな」
ヒルデが最後に言う。
「異変を感じたら即撤退」
「そっちもな」
ハイロが返す。
一瞬だけ、視線が交差する。
言葉はいらない。
「行くわよ」
ヒルデが窓から外へ視線を戻す。
荷馬車は、すでに路地の奥へと進んでいる。
「じゃあな」
シンが軽く手を上げる。
「後で合流な」
「死ぬなよ」
アッシュが短く言う。
「そっちこそ」
シンが笑う。
次の瞬間――
ヒルデとシンの姿が、音もなく動いた。
影のように外へ。
残された四人。
静寂が戻る。
ロードランが一歩前に出る。
「……さて」
低く言う。
「こっちも仕事だ」
視線の先は、“消えた壁”。
隠されていた入口。
「行くぞ」
短い号令。
アッシュは息を整え、
ゆっくりと頷いた。
――それぞれの夜が、動き出す。




