バルディオス 先行者
朝の光が、薄く差し込んでいた。
窓の隙間から入り込む光に、シンがゆっくりと目を開ける。
「……ん」
身体を起こし、軽く伸びをする。
「よく寝た……とは言い難いな」
ぼやきながら視線を向けると――
「お、起きたか」
アッシュが既に身支度を整えていた。
装備を確認し、腰の武器を軽く叩く。
「早ぇな」
「寝てられるかよ」
アッシュは肩をすくめる。
「とりあえず、今日は街の散策だな」
「だな」
シンもベッドから降りる。
「情報集め。観光ついでに」
「観光気分で行く場所じゃねぇけどな」
「まあまあ、肩の力抜けって」
シンが軽く笑う。
「昨日みたいに走らされるよりマシだろ?」
「……それは否定できねぇ」
アッシュも小さく笑った。
バルディオスの街は、朝から賑わっていた。
商人の呼び声。
荷車の往来。
人の流れは絶えない。
「……普通だな」
アッシュがぽつりと呟く。
「普通だな」
シンも同じように返す。
市場を歩き、路地を抜け、人の流れを観察する。
怪しい動き――なし。
不自然な気配――なし。
「……拍子抜けだな」
「平和が一番だろ」
シンが軽く言う。
「問題は、平和すぎることだ」
「……あー」
アッシュが顔をしかめる。
「逆に何も掴めねぇ」
「だな」
シンは腕を組み、少し考える仕草をする。
「さて、どうするか……」
「別の区画回るか?」
「それもありだけど――」
その時だった。
「おい」
背後から、声がかかる。
低く、聞き覚えのある声。
二人の動きが、一瞬だけ止まる。
ゆっくりと、振り向く。
「……げ」
アッシュの口から、素直な声が漏れた。
そこに立っていたのは――
「何してるんだ、お前ら」
ハイロだった。
腕を組み、じっと二人を見ている。
その視線は、明らかに“偶然じゃないだろ”と言っていた。
「いや、その……」
シンが口を開きかける。
だが、言葉が続かない。
本来なら――
ここにいていい立場じゃない。
分かっているからこそ、言い淀む。
「……」
アッシュも何も言えない。
空気が重くなる。
その沈黙を見て、
ハイロは小さく息を吐いた。
「クエストボードだろ」
一言。
図星だった。
「民事依頼、参加条件なし……その手のやつだ」
「……っ」
シンの肩がわずかに揺れる。
「図星か」
ハイロの目が細くなる。
「お前らな……」
呆れと、苛立ちが混じった声。
「自分らの立場、分かってるのか?」
一歩、近づく。
「訓練生が手出していい領域じゃねぇぞ、ここは」
言葉が、重く落ちる。
「分かってて来たんだろ」
否定できない。
二人とも、黙るしかなかった。
「……はぁ」
ハイロが深くため息をつく。
「本当、無茶しやがる」
その声には、怒りだけじゃないものが混じっていた。
「理由は?」
短い問い。
逃げ場はない。
シンは、一瞬だけ考えて――
「……ダチのため」
と、少しだけ笑いながら言った。
「レオン絡みだろ、どうせ」
ハイロが即座に返す。
「バレてるか」
シンが苦笑する。
「当たり前だ」
ハイロは頭を掻いた。
「お前ときたら…」
そして――
もう一度、二人を見る。
その目は、さっきより少しだけ柔らいでいた。
「……ったく」
小さく呟く。
「後で詳しく話せ」
短く言い残す。
その言葉は、
“まだ見捨ててない”という意味でもあった。




