バルディオス 到着
石畳の街路に、車輪の音が響く。
商業国バルディオス。
人の流れは多く、露店の声が飛び交い、活気に満ちている――が、
「……やっと着いたか」
荷馬車から降りたアッシュが、肩を回した。
「クソみたいな道のりだったな」
「……同感」
シンも短く答える。
長時間の逃走のせいで、身体は重い。
「さっさと宿取るぞ」
チャップが面倒そうに言う。
「こんなとこで突っ立ってても意味ねぇ」
その言葉に従い、一行は近くの宿へと入った。
簡素だが、清潔な造り。
最低限は整っている。
「……はぁ」
部屋に入った瞬間、アッシュがベッドに倒れ込む。
「やっと一息つけそうだな……」
シンは扉の近くに立ったまま、軽く周囲を確認する。
問題なし。
「で」
振り返る。
「今後の予定は?」
短く、だが核心を突く問い。
チャップは椅子に腰を下ろし、足を組んだ。
「あー……そうだな」
やる気のない声。
「当面は各自で動け」
「は?」
アッシュが顔を上げる。
「街の様子を探れってことだよ」
チャップはあくまで軽い調子で言う。
「バルディオス内の流れ、妙な動き、人の出入り……気になるもんは全部だ」
「……それを、バラバラでやるのか?」
シンが確認する。
「ああ」
即答。
「効率いいだろ」
どこか雑な理屈だった。
「それに――」
チャップは続ける。
「ルミナリアからも、何組か先行して来てるらしい」
「……他にもいるのか」
シンがわずかに目を細める。
「そいつらと接触できたら、情報交換しとけ」
チャップは片手をひらひらさせる。
「有益そうなの拾ってこい」
その言い方は――
完全に“丸投げ”だった。
「俺らは俺らで動く」
ソルベが軽く言う。
「お前らはお前らで勝手にやれ」
「……」
アッシュは何も言わない。
ただ、顔だけはしっかりとしかめていた。
「ま、そんなとこだ」
チャップが立ち上がる。
「明日から動け。今日は好きにしろ」
それだけ言うと、さっさと部屋を出ていった。
ソルベも後に続く。
扉が閉まる。
静寂。
数秒後――
「……はぁ?」
アッシュが上体を起こす。
「なんだよ今の」
「丸投げ」
シンが即答する。
「だよな!?」
アッシュが苛立ちを隠さず声を上げる。
「荷物運ばせといて、次は単独行動かよ!」
ベッドを軽く叩く。
「しかも“情報拾ってこい”って……自分でやれって話だろ!」
「……そうだな」
シンは短く言う。
少しだけ間を置いて、
「だが、都合はいい」
「は?」
アッシュが眉をひそめる。
「自由に動ける」
シンは淡々と続ける。
「余計な指示がない分、やりやすいだろ?」
「……まぁ、それはそうか」
アッシュが頭を掻く。
「どうせアイツらに任せてもロクなことにならねぇしな」
小さくため息をつく。
部屋は二人用。
簡素なベッドが並び、窓からは街の灯りが見える。
「今日はもう動けねぇ」
シンが言う。
「……それなぁ〜」
アッシュも素直に頷く。
「流石に限界だ」
「明日からだ」
「だな」
短いやり取り。
アッシュはそのままベッドに倒れ込む。
「……絶対ロクでもねぇことになるな、これ」
天井を見ながら呟く。
「……可能性は高い」
シンが淡々と返す。
「だよなぁ……」
苦笑混じりの声。
だが――
二人とも、引く気はなかった。
「ま、いいか」
アッシュが目を閉じる。
「やるだけやる」
「……ああ」
シンもベッドに腰を下ろし、静かに横になる。
街のざわめきが、遠くに聞こえる。
やがて――
二人は、そのまま眠りに落ちた。
嵐の前の、わずかな静けさの中で。




