荷運び
「ほら、さっさと積め」
顎で指された先には、雑に置かれた荷物の山。
木箱、麻袋、道具一式――
明らかに、今回の任務用の資材だ。
「……全部かよ」
アッシュが小さくぼやく。
「当たり前だろ」
チャップは鼻で笑う。
「まさか見てるだけのつもりか?」
そう言いながら、自分は一切手を動かさない。
近くの木箱に腰を下ろし、退屈そうに爪をいじっている。
(……やっぱりこういうタイプか)
アッシュは内心で舌打ちする。
シンは何も言わず、黙々と荷を持ち上げた。
「ほら、手ぇ止まってんぞ」
「分かってる」
短く返す。
二人は無言で作業を進める。
重さは問題ない。
だが――
(全部やらせる気かよ……)
アッシュの中で、じわじわと不満が溜まっていく。
それでも口には出さない。
ここで揉めても意味がない。
目的は別にある。
しばらくして――
「おーい、チャップ」
間延びした声が飛んできた。
振り向くと、一人の男が手を振りながら近づいてくる。
軽装だが、腰には武器。
雰囲気からして、同業者。
「……ソルベか」
チャップが立ち上がるでもなく答える。
「遅ぇぞ」
「悪ぃ悪ぃ」
ソルベは軽く手を振りながら近づき――
そして、荷馬車の前で止まった。
視線が、アッシュとシンに向く。
「……これだけか?」
眉をひそめる。
「ってか、ガキじゃねーか」
遠慮のない一言。
「仕方ねーだろ」
チャップが肩をすくめる。
「コイツらしか来なかったんだからよ」
「はぁ?」
ソルベが呆れたように笑う。
「お前、条件緩くしすぎたんじゃねぇのか?」
「してねぇよ。むしろ妥当だ」
「じゃあなんでこんな――」
言いかけて、また二人を見る。
「……いや、そりゃ来ねぇわ」
小さく吹き出した。
そのやり取りを聞きながら、
シンは無言で荷物を運び続ける。
(……当たり前だろ)
心の中でだけ、呟く。
バルディオスへの潜入。
個人受注。
条件なしで高報酬。
まともな人間ほど、避ける。
(だから俺たちが来た)
視線を上げることはない。
ただ、黙って動く。
「ま、いいか」
ソルベは肩を回す。
「数より使いようだろ」
「使えりゃな」
チャップが鼻で笑う。
二人とも、完全に“数合わせ”扱いだった。
やがて――
最後の荷物が積み終わる。
シンが手を払う。
「……終わった」
アッシュも軽く息を吐いた。
「やっとかよ」
チャップが面倒くさそうに立ち上がる。
「じゃあ行くぞ」
ようやく、という感じだった。
御者台に乗り込み、手綱を握る。
ソルベも軽く荷台に飛び乗る。
「落ちんなよ、ガキども」
ニヤつきながら言う。
アッシュは肩をすくめた。
「そっちこそな」
小さく返す。
シンは何も言わない。
ただ、荷台の端に腰を下ろす。
荷馬車が、ゆっくりと動き出す。
向かう先は――バルディオス。
軽く扱われたまま、
二人はその危険の中へ踏み込んでいく。




