赤い夜2
レオンは村の中を走る。
倒れた家。
燃える木材。
地面に転がる人。
「……っ」
息が詰まる。
知っている顔ばかりだ。
さっきまで笑っていた人たち。
それが今は、動かない。
「誰か……!」
声を張る。
返事はない。
ただ、遠くで戦う音だけが響く。
ふと、物陰から音がした。
振り向く。
小さな子供が、震えていた。
「……大丈夫か」
近づく。
手を伸ばす。
その瞬間。
背後で、気配。
振り向く。
影が、すぐそこにいた。
腕が振り下ろされる。
「……っ!!」
とっさに体をひねる。
かすめる。
地面に転がる。
痛み。
息が詰まる。
起き上がろうとするが、間に合わない。
影が再び腕を上げる。
終わる——
そう思った瞬間。
——ヒュンッ
風を切る音。
影の頭部が、横に弾けた。
矢だ。
そのまま崩れる。
完全に動かなくなる。
「……遅え」
低い声。
振り向くと、カーシュがいた。
息は少し荒いが、まだ立っている。
「一人で何とかしようとすんな」
「……ごめん」
「謝るな。生きろ」
短い言葉。
それだけだった。
だが、重かった。
カーシュは周囲を見渡す。
そして、小さく舌打ちした。
「……数が減らねえ」
その言葉通りだった。
どれだけ倒しても、影は消えない。
むしろ——
増えている気さえする。
炎はさらに広がり、村の半分がすでに崩れていた。
「……レオン」
カーシュが静かに呼ぶ。
「……なに」
「ここは、もう持たない」
はっきりと言った。
否定できない現実。
「……逃げるぞ」
「……」
言葉が出ない。
村を捨てる。
それは——
「いいから来い!」
腕を掴まれる。
強引に引かれる。
足が動く。
だが、心がついていかない。
振り返る。
燃える村。
崩れる家。
消えていく場所。
帰る場所。
「……っ」
何もできない。
ただ、見ているだけ。
その無力さが、胸を締め付ける。
その夜。
村は——
赤く染まった。




