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行き先

荷馬車は、変わらぬ速度で進み続けていた。

先ほどまでの空気は少し和らいだまま、

しばらくは穏やかな時間が流れていたが――

「なあ」

不意に、ニクスが口を開く。

「結局、どこ向かってんだ?」

足を組み直しながら、少し面倒そうに言う。

「山だってのは聞いたけどよ。具体的にどこだ」

ファルガは一度だけ手綱を引き、馬の進みを整えてから答えた。

「商業国バルディオスを抜けた先――」

その名前が出た瞬間、

荷台の空気が、わずかに張り詰めた。

「……バルディオス」

ミレアが小さく呟く。

レオンの脳裏にも、あの時の光景がよぎる。

――誘拐未遂。

――セイル。

「その先にある、ハウリス山脈だ」

ファルガは続ける。

「目指すのは頂上付近。ケツァルコアトルが巣を作るには、ああいう高所が都合いいからな」

「……よりによって、そこ通るのかよ」

ニクスが露骨に顔をしかめた。

「心配すんな」

ファルガは軽く言う。

「例の件――レオンとミレアの誘拐未遂な」

視線は前のまま。

「まだ国が絡んでるかどうかは分かっちゃいねぇ」

「……でも、セイルはあそこに関係してる可能性が高い」

レオンが低く言う。

「ああ」

ファルガは否定しない。

「ただな。仮に関係してたとしても、だ」

少しだけ声の調子が変わる。

「今は“表立って争ってる状態じゃねぇ”」

荷馬車が、ゆっくりと揺れる。

「そんな状況で、堂々と襲撃なんざしてくりゃ――」

「全面衝突…」

リシェルが淡々と補足する。

「そういうこった」

ファルガは軽く頷く。

「だから、少なくとも露骨な手は打ってこねぇだろうな」

「……裏で動く可能性はありますよね…」

ミレアが静かに言う。

「あるな」

即答だった。

「だから警戒は解くな。だが怯える必要もねぇ」

その言葉は、不思議と重さがあった。

「ルミナリア側も、この件は慎重に動いてるらしい」

ユージンが顔を上げる。

「……やっぱり、何か掴んでるんですか」

「さあな」

ファルガは肩をすくめる。

「だが――」

少しだけ間を置いて、

「アルケニアとの繋がりも、気になるとこだしな」

その一言で、

今度は別の意味で空気が固まる。

「……アルケニア軍」

ニクスが低く呟く。

戦場の記憶が、まだ新しい。

奇襲、魔法、そして――死。

レオンは無意識に拳を握っていた。

(繋がってるのか……?)

セイル。

バルディオス。

そしてアルケニア。

点だったものが、少しずつ線になり始めている。

だが――

まだ確証はない。

「ま、今は目の前の任務だ」

ファルガが、空気を切り替えるように言った。

「余計なこと考えて足元すくわれる方がよっぽど危ねぇ」

その言葉に、

誰もが小さく頷いた。

荷馬車は進む。

静かに、だが確実に。

それぞれが、胸の内に“引っかかり”を残したまま。

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