出立
荷馬車はゆっくりと軋みながら進んでいた。
乾いた道を踏みしめる車輪の音が、一定のリズムで響く。
ヴァルグラントを発ってから、しばらく。
街の喧騒は既に遠く、周囲には開けた草原が広がっている。
荷台の中では、レオン達が思い思いに腰を下ろしていた。
「なあ、ファルガ」
揺れに身を任せながら、レオンが口を開く。
「ん?」
御者台に座るファルガが、軽く振り返る。
「前から気になってたんだけどさ……剣士のランクって、どういう仕組みなんだ?」
その一言に、何人かが興味を向けた。
「ああ、それか」
ファルガは軽く笑い、手綱を操りながら答える。
「魔導士とはちょっと事情が違ってな。そもそも剣士ってのは、国の正規兵じゃねぇことが多い」
「違うのか?」
「ああ。ほとんどが傭兵扱いだ」
レオンが眉をひそめる。
「理由は単純だ。前線に立つ剣士は……死にやすいから」
空気が、わずかに重くなる。
「いちいち登録して管理してたら手間がかかりすぎる。だから最初から“個人で動く存在”として扱われてるってわけだ」
「……なるほど」
レオンは静かに頷いた。
ファルガは続ける。
「で、その中で強さを測る目安として出来たのがランク制度だ。元々は自由都市ゼルガリアの冒険者ギルドが使ってたもんでな」
「ギルド……」
ミレアが小さく反応する。
「依頼の難易度を見て、適正なランクの剣士を割り振る。そのための基準だな。今じゃどこの国でも共通認識になってる」
「ランクはどう分かれてるんだ?」
「下から――ブロンズ、シルバー、ゴールド……」
そこで、レオンがふと首を傾げる。
「……それで終わりか?」
「いや」
ファルガは少しだけ意味ありげに笑った。
「その上に、もう一つある」
「……え?」
レオンの目がわずかに見開かれる。
「プラチナランクだ」
「……ゴールドより上があるのか」
素直な驚きだった。
「ああ。ただし、ちょっと特殊でな」
ファルガは視線を前に戻したまま、言葉を続ける。
「プラチナは――武技と魔法、その両方を扱える者に与えられる称号だ」
その瞬間、空気がわずかに変わった。
「……両方?」
リシェルが小さく呟く。
「ルミナリアじゃまず成立しねぇ。魔法適性がある奴は学園に行って魔導士になる。わざわざ剣士なんてやらねぇからな」
「確かに……」
ユージンが静かに同意する。
「理論上は、魔法使いが剣を極めれば到達できる。だが現実は甘くねぇ。どっちも中途半端になるのがオチだ」
「……」
レオンは黙って話を聞いていた。
「だから実質、ルミナリアじゃゴールドが最高位だ」
「じゃあプラチナって……ほとんどいないのか?」
「ああ」
ファルガは、はっきりと答えた。
「この世でプラチナの称号を持ってるのは――教国の“白騎士”と呼ばれる奴、ただ一人だ」
沈黙が落ちる。
その言葉の重みは、誰にでも理解できた。
そして――
「……でもよ」
ファルガが、ふっと口元を緩める。
「お前には、素質があるかもしれねぇな」
「……俺が?」
レオンが顔を上げる。
「魔導士でありながら、剣で戦う。しかもあの出力だ」
軽く肩をすくめる。
「正直、こっちの方が居心地いいんじゃねぇのか?ヴァルグラントの方がよ」
少しの沈黙。
レオンは、少しだけ考えるように目を伏せて――
「……正直」
ぽつりと呟く。
「魔法学を学んでるより、鍛錬してる方が性に合ってる」
その一言に、
ユージンの視線が、わずかに揺れた。
そして、静かに下を向く。
それを、レオンは見逃さなかった。
「……でも」
顔を上げる。
「それでも――」
ゆっくりと、仲間達の方を見る。
「俺の居場所はここだ」
はっきりとした声だった。
「仲間が支えてくれるから、俺はここにいる」
その言葉に、
一瞬の静寂が流れ――
「……お前」
ニクスが顔をしかめる。
「よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えるな」
耳が少し赤い。
レオンが即座に返す。
「やかましいのがニクスかアッシュかなんて、些細な違いだろ」
「んだとコラァ!!」
ニクスが身を乗り出す。
そのやり取りに、
ミレアが小さく笑い、リシェルもわずかに目を細める。
空気が、少しだけ柔らいだ。
そして――
「……そうかい」
ファルガが、静かに呟いた。
振り返らずに、ただ前を見たまま。
「いい仲間達だな」
荷馬車は、変わらず進み続ける。
その先にあるものを、誰もまだ知らないままに。




