グルメ家の依頼
学園の門を出たところで、三人が足を止めた。
「……で?」
ニクスが腕を組みながら言う。
「いい加減、説明してもらおうか」
その視線はレオンとユージンに向けられていた。
リシェルとミレアも、静かに続きを待っている。
当然だった。
護衛任務。
それだけで納得できる内容ではない。
ユージンが小さく息を吐き、一歩前に出る。
「……今回の任務、普通任務じゃない」
前置きは短い。
「教国に行くための手段なんだ」
その一言で、三人の表情が変わる。
ミレアが即座に反応する。
「教国……?」
「政法国家の、あそこ?」
ユージンは頷く。
「レイの母親に協力してもらってる」
淡々と説明する。
許可証が必要なこと。
通常ルートでは行けないこと。
そして――
今回の依頼が、その“抜け道”であること。
「ただし」
言葉を区切る。
「任務の詳細は、まだ分からない」
ニクスが鼻で笑う。
「は?見切り発車かよ」
だが、その目はどこか楽しそうだった。
「いいじゃねぇか。面白そうだ」
ミレアは少しだけ考え込み、そして言う。
「情報が足りないのは不安だけど……」
視線を上げる。
「それだけ価値があるってことね」
リシェルは何も言わない。
ただ、小さく頷いた。
それで十分だった。
レオンは前を向く。
「行けば分かる」
それだけ言って、歩き出した。
---
転移施設。
光が視界を覆い――
次の瞬間、ヴァルグラントの空気に変わる。
転移先の広場。
そこには、すでに二つの影があった。
「お、来たな」
軽い声。
ファルガだった。
その隣には、レイの姿もある。
待っていたようだった。
レオンたちは歩み寄る。
軽く視線を交わす。
「よ」
ファルガが手を上げる。
「来ると思ってたぜ」
レオンは無言で立ち止まり――
「……随分と、いい加減な依頼書だな」
開口一番、それだった。
ユージンが苦笑する。
ファルガは一瞬だけ目を細め――
そして、笑った。
「はは、悪いな」
軽く肩をすくめる。
「形式上、ああするしかなかったんだよ」
全く悪びれない。
レオンは小さく舌打ちするが、それ以上は言わない。
「……で?」
短く促す。
ファルガの表情が、少しだけ変わる。
軽さが抜ける。
「そんなことより本題だ」
周囲の空気が、わずかに締まる。
「お前らが受けた依頼は、ただの“口実”だ」
はっきりと言い切る。
ニクスが眉を上げる。
「やっぱりな」
予想通り、といった顔。
ファルガは続ける。
「今回の本命は――俺が受けてる依頼だ」
その一言で、全員の意識が集中する。
ファルガは一歩前に出る。
そして、静かに告げた。
「――ケツァルコアトルの卵の捕獲」
空気が、止まる。
ミレアの目が見開かれる。
「……は?」
思わず声が漏れる。
ユージンも言葉を失っていた。
ニクスですら、わずかに驚いた顔をする。
「卵を捕獲し、依頼主の元へ届ける」
ファルガは淡々と続ける。
「それが内容だ」
レオンは黙って聞いている。
その目だけが、わずかに鋭くなる。
「依頼主は、教国の“食通”だ」
ファルガが言う。
「珍品、危険種、希少素材――」
肩を回しながら続ける。
「そういうもんに目がねぇ連中だな」
ミレアが呟く。
「……グルメ家、ってことですか?」
「ああ」
ファルガは頷く。
「だがな」
視線が、全員を見渡す。
「この手の依頼は、誰でも受けられるもんじゃねぇ」
声が低くなる。
「素材の難易度がそのまま選別基準だ」
つまり――
「優れた奴しか、辿り着けない」
教国に繋がる理由が、そこにあった。
ユージンが理解する。
「……実績と実力の証明、ですか」
「そういうことだ」
ファルガは笑う。
「成功すりゃ、向こうから扉が開く」
だが――
その笑みが、少しだけ鋭くなる。
「当然、危険性は高い」
言葉に重みが乗る。
「ケツァルコアトルだぞ?」
誰も軽く受け取らない。
空を支配する存在。
その卵を奪う。
「親が出てきたら、終わりだ」
さらりと言う。
だが、その意味は重い。
沈黙が落ちる。
そして――
ファルガが問いかける。
「それでも、行くか?」
試すような視線。
逃げ道は、今ならある。
レオンは一歩前に出た。
迷いはない。
「……行く」
短く、即答。
ユージンも続く。
「もちろんです」
静かだが、揺るがない声。
ニクスが笑う。
「面白ぇじゃねぇか」
リシェルは小さく頷く。
ミレアも息を吐き、覚悟を決める。
「……やるしかないですよね…」
全員の意思が、揃う。
ファルガはそれを見て――
満足そうに笑った。
「よし」
軽く手を叩く。
「決まりだな」
視線が、前を向く。
「じゃあ行くぞ――」
その一言で。
任務は、“本当に”始まった。




