初任務
朝の光が、教室に差し込む。
いつもと同じ時間。
いつもと同じ景色。
ディルクの声が淡々と響き、各生徒へ依頼書が配られていく。
「以上だ。各自、任務に移れ」
その一言で、空気が動く。
椅子が引かれ、生徒たちが立ち上がる。
ざわめきと共に、次々と教室を後にしていく。
――いつも通りの光景。
だが。
レオンは、その場に座ったまま動かなかった。
ただ、静かにそれを見つめている。
ユージンも同じく、席を立たない。
やがて――
教室の中に残った人数が、極端に減る。
そして、ふと気づく。
(……!)
視線を巡らせる。
残っているのは――
リシェル。
ニクス。
ミレア。
自然と、視線が交わる。
ニクスが眉をひそめ、ディルクへ向く。
「……おい、教官」
腕を組みながら言う。
「俺ら、まだ呼ばれてねぇんだけど?」
軽い調子のようでいて、その目は真剣だった。
ディルクは答えない。
数秒の沈黙。
教室の空気が、ゆっくりと張り詰めていく。
そして――
「……いいだろう」
低く呟くように言う。
視線が、残った五人へと向けられる。
「お前たちには、別の任務を与える」
その一言で、空気が変わる。
「ニクス、リシェル、ミレア」
名を呼ばれる。
三人の背筋が、わずかに伸びる。
「護衛任務に当たってもらう」
短く、だがはっきりとした命令。
ニクスが片眉を上げる。
「護衛、ねぇ……誰のだ?」
ディルクは一拍置き――
「院卒として四級魔導士……」
その言葉を区切る。
そして、視線を動かす。
「レオンとユージンに同行する」
その瞬間。
三人の視線が、一斉にレオンへと向けられた。
驚き。
興味。
そして、わずかな緊張。
レオンは何も言わない。
ただ、その視線を受け止める。
ニクスが小さく笑う。
「……へぇ」
どこか楽しそうな声。
「お前らが“主役”ってわけか」
リシェルは静かにレオンを見ている。
ミレアは状況を整理するように目を細めていた。
ディルクが続ける。
「今回の任務は、通常のものとは異なる」
その声は、いつもよりわずかに重い。
「詳細は現地で説明される」
そして――
レオンとユージンを見る。
「……お前たち」
短く呼びかける。
二人は同時に顔を上げた。
「今回は、“守られる立場”ではない」
その言葉が、静かに落ちる。
「“守る立場”だ」
はっきりと言い切る。
教室の空気が、さらに引き締まる。
「この意味――分かるな」
問いかけではない。
確認だった。
一瞬の静寂。
そして――
「……ああ」
レオンが答える。
「分かってる」
低く、だが迷いのない声。
ユージンも続く。
「はい」
短く、はっきりと。
ディルクはそれを見て、小さく頷いた。
「ならいい」
それ以上は言わない。
だが、その目には確かな意思があった。
任せる、という意思。
同時に――
見極める、という意思。
ニクスが肩を回す。
「護衛、ね……」
にやりと笑う。
「退屈はしなさそうだ」
ミレアが静かに言う。
「情報が少なすぎるね……でも、逆に興味はある」
リシェルは何も言わない。
ただ、小さく頷いた。
準備はできている、というように。
レオンはゆっくりと立ち上がる。
ユージンも続く。
視線が、自然と前を向く。
もう、戻れない。
任務は動き出している。
そして――
今度は、自分たちが“中心”だ。
レオンは小さく息を吐く。
胸の奥に、あの戦場の記憶がよぎる。
だが――
今は違う。
守られる側ではない。
「……行くぞ」
短く言う。
その一言に、全員が応じるように動き出す。
教室を出る。
その先には――
新たな任務へと




