手渡された物
朝の光が、教室の窓から差し込んでいた。
いつも通りのホームルーム。
いつも通りの風景。
だが――
「以上だ。各自、任務に移れ」
ディルクの一言で、空気が動く。
生徒たちが立ち上がり、それぞれの依頼へ向かっていく。
椅子の音。
足音。
ざわめき。
その中で――
「レオン、ユージン」
呼び止められる。
二人は同時に振り返った。
「残れ」
短い指示。
周囲の生徒たちが一瞬だけ視線を向けるが、すぐに興味を失い教室を出ていく。
やがて――静かになる。
教室には三人だけが残った。
ディルクは何も言わず、懐から小さな箱を取り出す。
黒い、小箱。
装飾はない。
だが、どこか重みを感じるそれを、机の上に置いた。
「受け取れ」
レオンとユージンは顔を見合わせ、無言でそれを手に取る。
手のひらに収まる程度の大きさ。
ゆっくりと蓋を開ける。
中に収められていたのは――
一つの魔道具だった。
小型のプレート。
金属と魔石が組み合わさったような構造。
淡く、魔力の気配が漂っている。
「……これは」
ユージンが呟く。
ディルクが答える。
「個人識別用の魔道具だ」
簡潔な説明。
「同時に、簡易的な通信魔法の機能も備えている」
レオンがそれを手に取る。
ひんやりとした感触。
だが、その奥に確かな力を感じる。
「任務中の連絡、緊急時の報告に使用しろ」
淡々と続ける。
「紛失は許されん」
短いが、重い言葉。
ユージンが静かに頷く。
「了解しました」
ディルクは一度、二人を見た。
そして――
「本日をもって」
わずかに間を置く。
「お前たちは正式な“四級魔導士”だ」
教室の空気が、わずかに変わる。
「任務の受注を許可する」
その一言で、全てが決まる。
もう“見習い”ではない。
選び、動き、結果を出す側。
責任を持つ側だ。
レオンは無言で魔道具を見つめる。
その表面に、うっすらと自分の顔が映る。
(……ここから、か)
小さく息を吐く。
ユージンが口を開く。
「任務は、すぐにでも?」
「ああ」
ディルクは即答する。
「制限内であれば、今日から受注可能だ」
それだけ言うと、視線を外す。
「判断は任せる」
突き放すようでいて、信頼にも似た言葉。
レオンは魔道具を握る。
ゆっくりと、ポケットへしまう。
「……行くか」
短く言う。
ユージンが軽く笑う。
「そうだね」
二人は扉へ向かう。
一度だけ、立ち止まる。
振り返ることはない。
ただ――
前へ進む。
扉を開ける。
外の空気が流れ込む。
それは、今までと同じようでいて――
確実に違うものだった。
一歩を踏み出す。
その先には、
まだ見えない任務へと、




