名案
会議室を後にした二人は、その足で転移施設へ向かった。
迷いはなかった。
向かう先も、やるべきことも、ある程度見えている。
「……ヴァルグラントでいいんだな」
ユージンが確認するように言う。
「ああ」
短く、レオンが答える。
「レイの母親なら、何か知ってるかもしれない」
それだけを頼りに。
光が二人を包み――
次の瞬間、景色が切り替わった。
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活気のある街並み。
ルミナリアとは違う、力強さを感じる空気。
ヴァルグラント。
二人はそのまま、シンの家へと向かう。
扉の前に立ち、軽くノックする。
ほどなくして扉が開いた。
「はい――あら」
現れたのは、シンの母親だった。
穏やかな表情。
どこか安心感のある雰囲気。
「レオンくんと、ユージンくんね」
柔らかく微笑む。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
軽く頭を下げ、中へ入る。
だが――
「シン達は、今遠征に出てるの」
申し訳なさそうに言う。
「……そうですか」
レオンは小さく頷く。
少し考え――
「レイの家、教えてもらえますか」
単刀直入だった。
シンの母は一瞬だけ目を丸くし、すぐに笑った。
「いいわよ。場所だけじゃ分かりにくいでしょうし……」
後ろを振り返る。
「この子が連れていくわ」
奥から顔を出したのは、シンの妹だった。
元気そうに手を振る。
「任せて!」
そのまま三人で家を後にする。
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しばらく歩き、辿り着いたのは落ち着いた佇まいの家だった。
「ここだよ」
妹が指差す。
「ありがとう」
礼を言い、レオンは扉の前に立つ。
コンコン、とノック。
間もなく、扉が開いた。
「はい――」
現れたのは、落ち着いた雰囲気の女性。
レイの母親だった。
「どちらさまでしょうか?」
穏やかな声。
ユージンが一歩前に出る。
「ルミナリア魔導学園のユージンと申します。こちらはレオンです」
丁寧に頭を下げる。
その言葉に、彼女はわずかに目を細めた。
「ああ……レイの友人ですね」
柔らかく微笑む。
「話は聞いていますよ」
そのまま扉を大きく開ける。
「どうぞ、中へ」
二人は中へ通される。
落ち着いた空間。
無駄のない整った室内。
「それで、ご用件は?」
席に着き、静かに問われる。
レオンは一切遠慮しなかった。
「教国への行き方を知りたい」
直球だった。
空気が、わずかに張り詰める。
だが、彼女は動じない。
「……なるほど」
一度、ゆっくりと頷く。
「結論から言います」
その視線が、二人をまっすぐ捉える。
「ルミナリアから直接行くことは不可能です」
即答だった。
「……やっぱりか」
レオンが小さく呟く。
「教国へ入るには、一度ゼルガイアを経由する必要があります」
淡々と説明が続く。
「さらに、“申請許可証”がなければ入国はできません」
ユージンが眉をひそめる。
「許可証……」
「理由もなく行ける場所ではないのです」
その言葉には、はっきりとした線引きがあった。
教国。
それは閉ざされた場所。
簡単に踏み込める領域ではない。
「……」
沈黙が落ちる。
レオンは視線を落とし、考える。
突破口は、ない。
少なくとも、今すぐには。
「……当面は」
ぽつりと呟く。
「任務を受けて、実績積むしかないか」
現実的な結論だった。
それしかない。
その言葉に――
レイの母が、わずかに反応した。
「……もしかして」
二人を見る。
「あなたたち、“四級魔導士”なの?」
ユージンが頷く。
「はい。許可はいただき、現在正式な申請中です」
その答えに、彼女は少しだけ考え――
そして、ふっと笑った。
「それなら」
立ち上がる。
「私に名案があります」
二人が顔を上げる。
「本当ですか」
ユージンが問う。
「ええ」
穏やかに頷く。
「少し準備が必要なので、今日はこれ以上は難しいですが」
一度、二人を見て――
「期待して待っていてください」
意味深な言葉。
それ以上は語らない。
だが、その表情には確信があった。
レオンとユージンは顔を見合わせる。
「……分かりました」
短く答えるしかなかった。
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その後、二人はヴァルグラントを後にし、学園へ戻る。
帰り道。
夕暮れの光の中で――
「……名案、か」
レオンが呟く。
「気になるね」
ユージンが苦笑する。
「ゼルガイア経由って話を覆せるとは思えないけど……」
「だよな」
レオンも同意する。
だが――
「……でも、あの人なら何かありそうだ」
根拠はない。
ただの感覚。
それでも、そう思えた。
しばらく無言で歩く。
沈む夕日。
伸びる影。
「……やることは変わらないな」
レオンが言う。
「任務受けて、力つける」
「うん」
ユージンも頷く。
「その上で、道を探す」
二人の視線が、前を向く。
まだ見えない先。
だが――
確実に、次へと繋がっている。
その一歩を踏み出しながら――
物語は、次の段階へと進んでいく。




