四級魔導士
教室の空気が、まだどこか重さを残している中。
ディルクは何も言わず、淡々と任務書を配り始めた。
一人、また一人と紙を受け取っていく。
ざわめきは小さい。
誰もが、どこか先ほどの話を引きずっていた。
「……レオン、ユージン」
名前が呼ばれる。
二人は顔を上げた。
「この後、会議室へ来い」
それだけ言うと、次の生徒へと視線を移す。
特別な説明はない。
だが――
それがどういう意味かは、なんとなく理解できた。
レオンとユージンは軽く視線を交わし、無言で頷く。
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会議室の前。
扉の前に立つと、自然と背筋が伸びる。
レオンは一度だけ息を吐き――扉を開けた。
中には、すでにディルクがいた。
机の向こう側。
いつもと変わらない姿。
「来たか。座れ」
短い指示。
二人は向かい合う椅子に腰を下ろす。
静かな空間。
紙の擦れる音だけが、わずかに響く。
ディルクは一枚の書類を机の上に置き、口を開いた。
「ライセンス取得について説明する」
淡々とした声。
「先ほど通達した通り、お前たちは正式にライセンス取得者となった」
事実の確認。
だが、その意味は大きい。
「今後はインターンではない」
視線が、二人を捉える。
「学園生でありながら、“四級魔導士”として活動してもらう」
空気が、わずかに引き締まる。
肩書きが変わる。
それは、そのまま責任の変化でもある。
「国が正式に発注している任務の中から、自ら選択し、受注が可能となる」
自由。
だが――
「ただし」
ディルクが言葉を区切る。
「学生である以上、受注できる任務には制限がかかる」
机の上の書類を軽く叩く。
「危険度の高い案件、単独での受注は不可」
当然の制約。
「必ず複数人、あるいは監督者付きでの行動となる」
レオンは無言で聞いている。
ユージンも同様に、冷静に受け止めていた。
「以上が基本事項だ」
ディルクは二人の反応を確認するように一度目を向け――
「質問はあるか」
短く問う。
数秒の沈黙。
ユージンが口を開く。
「任務の選択は、完全に自由ですか?」
「制限内であればな」
即答だった。
「ただし、内容次第ではこちらから調整をかける場合もある」
「了解しました」
ユージンは小さく頷く。
レオンは何も言わない。
だが、その目は書類へと向いていた。
「……では、申請書を書け」
ディルクがペンを差し出す。
机の上に置かれた書類。
そこには――
名前を書く欄。
階級。
所属。
そして、承認欄。
レオンはペンを取る。
ほんの一瞬、手が止まる。
(……四級魔導士、か)
その肩書きの重さを、少しだけ感じる。
だが――
迷いはない。
ゆっくりと、自分の名前を書く。
ユージンも同様に、丁寧に記入していく。
書き終えた紙を、ディルクへ差し出す。
ディルクはそれを確認し、小さく頷いた。
「これで正式に登録される」
書類を重ね、脇へ置く。
「以降、任務は各自で選択しろ」
それだけだった。
特別な言葉はない。
だが、それで十分だった。
「……以上だ。下がっていい」
二人は立ち上がる。
軽く一礼し、そのまま会議室を後にする。
扉を閉める。
廊下に出ると、少しだけ空気が軽く感じた。
「……なんか、一気に変わったね」
ユージンが苦笑する。
レオンは小さく息を吐いた。
「……ああ」
短く答える。
インターンではない。
“見習い”でもない。
任務を“受ける側”になった。
その違いは、確実に大きい。
しばらく無言で歩く。
そして――
レオンがぽつりと呟く。
「……選べる、か」
その言葉には、少しだけ意味がこもっていた。
何を選ぶか。
どこへ向かうか。
それはもう、誰かに決められるものではない。
自分で決めるものだ。
レオンは前を見た。
静かに。
だが、確かに。
次へ進む準備は、整いつつあった。




