ゼルガリア 日常
まだ陽も昇りきらない時間。
淡い光の中、転移装置の前に数人の影が立っていた。
レオン、ユージン、そしてディルク。
その後ろに、回復魔導士の二人。
誰も多くを語らない。
静かな空気。
だが、重さだけがそこにあった。
「転移後は、そのまま教室へ向かえ」
ディルクが口を開く。
いつもと変わらない、淡々とした口調。
「今回の報告は私が行う」
短く、それだけを告げる。
レオンとユージンは、黙って頷いた。
光が足元に広がる。
魔法陣が起動する。
一瞬の浮遊感。
そして――
景色が切り替わった。
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見慣れた廊下。
石の床。
窓から差し込む朝の光。
ルミナリア魔導学園。
数日しか離れていないはずなのに――
「……なんか、変な感じだな」
レオンがぽつりと呟く。
ユージンも小さく頷いた。
「同感だよ」
短い会話。
それだけで、十分だった。
二人はそのまま教室へ向かう。
扉の前で、一瞬だけ足が止まる。
だが――開ける。
ガラリ、と音を立てて扉が開く。
そこにあったのは――
いつもと変わらない光景だった。
談笑する生徒。
笑い声。
穏やかな空気。
何一つ変わっていない。
それなのに――
どこか、遠く感じた。
「お、戻ったか」
ニクスの声。
いつもの調子。
だが、すぐに違和感に気づく。
「……おい」
二人の表情を見て、言葉を切る。
軽口は出てこない。
「……何かあったな」
静かに言う。
レオンは何も答えない。
その代わり――
リシェルが、ゆっくりと近づいてくる。
「……大丈夫?」
短い問い。
だが、その中にある気遣いは明確だった。
ユージンが一歩前に出る。
「……話すよ」
教室の空気が、少しだけ引き締まる。
そして――
語られる。
ゼルガイアでの任務。
戦場の現実。
アルケイア軍。
そして――
セイルの存在。
さらに、魔装兵器獣。
その一つ一つが、教室の空気を変えていく。
笑い声は消え、誰も口を挟まない。
最後まで聞き終えたとき。
重い沈黙が落ちた。
「……セイル、か」
ニクスが低く呟く。
その拳が、わずかに握られる。
「また、あいつかよ……」
苛立ちが滲む声。
だが、それ以上は言わない。
言えない。
現実の重さが、それを許さなかった。
そのとき。
ガラリ、と扉が開いた。
ディルクだった。
教室の空気を一瞬で把握し、そのまま教壇へ向かう。
「全員、席に着け」
短く指示。
誰も逆らわない。
全員が席に着く。
ディルクは一度、教室を見渡し――
口を開いた。
「まず、報告事項だ」
淡々とした声。
「今回の派遣任務において、一定の成果が認められた」
視線が、レオンとユージンへ向く。
「レオン、ユージン」
名を呼ばれる。
二人は立ち上がる。
「両名に対し、ライセンス取得の許可が下りた」
一瞬。
教室が静まり返る。
次の瞬間、ざわめきが広がる。
「マジかよ……」
「もうか……!」
驚きの声。
当然だった。
通常、ライセンス取得には長い期間と実績が必要だ。
それが――
「教官である私の評価ではない」
ディルクが続ける。
ざわめきが止まる。
「同行した三級魔導士二名が、両名の働きを高く評価した」
あの戦場。
後方支援でありながら、前線に関与し、生還に貢献した。
その結果だった。
「それに基づき、正式に認可された」
事実だけを告げる。
感情は乗せない。
だが――その重みは十分だった。
レオンは何も言わない。
ユージンも同様に、静かに立っている。
喜びは――ない。
ただ、受け止める。
ニクスがちらりと二人を見る。
その目に、いつもの対抗心はなかった。
代わりにあるのは――
「……そうかよ」
小さく呟く。
それだけだった。
ディルクが言う。
「以上だ。着席しろ」
二人は席に戻る。
教室は再び静かになる。
だが――
もう、さっきまでと同じ空気ではなかった。
確実に、何かが変わっていた。
そしてレオンは――
静かに前を見つめていた。
その目には、以前とは違う色が宿っていた。




