ゼルガリア タスクフォース
戦場は、すでに原形を失っていた。
陣形は崩れ、叫び声と金属音が無秩序にぶつかり合う。
どこが前線で、どこが後方か――そんなものはもう存在しない。
レオンは、その中を真っ直ぐに駆けていた。
(奥だ)
マナの流れが、歪んでいる。
一点に集中する、不自然な渦。
そこに“いる”。
それだけを頼りに、足を止めない。
「邪魔だッ!」
振り下ろされる剣を、身体をひねって避ける。
反撃はしない。
止まるからだ。
そのまま踏み込み、さらに奥へ。
だが――
「待てッ!」
鋭い声が飛ぶ。
次の瞬間、目の前に影が割り込んだ。
長く伸びた耳。
しなやかな体躯。
獣亞人――兎種。
彼女はレオンの前に立ち、剣で敵の一撃を弾いた。
「ガキが来る場所じゃない!」
一喝。
振り向いたその目は、怒りと焦りを帯びていた。
レオンは足を止めない。
「転移魔法使いがいる!」
短く、言い切る。
「このままだと増援が来る!」
一瞬。
彼女の表情が変わる。
「……なんだと?」
その間にも、敵が迫る。
彼女は舌打ちしながら、迫る兵の喉元を一閃で断ち切った。
血が舞う。
だが、その視線はすぐにレオンへ戻る。
「誰の指示だ」
「ディルクだ」
即答。
その名前に、周囲の空気がわずかに揺れた。
近くにいた数人の獣亞人たちも、こちらへ視線を向ける。
「……あの教官か」
低く呟き、彼女は一瞬だけ考える。
そして――
「いいだろう」
即断だった。
「お前、どこまで分かる」
「大体の位置は」
「十分だ」
彼女は振り返り、周囲に叫ぶ。
「おい!こいつを通す!」
その声に応じて、近くにいた獣亞人たちが集まる。
狼種、猫種、そして同じ兎種。
種族は違えど、その動きに無駄はない。
「中心を開けろ!」
瞬時に、形が変わる。
レオンを中心に据えた、小さな陣形。
前衛が盾となり、側面が刃を振るう。
後方が死角を潰す。
即席とは思えない完成度だった。
「行くぞ!」
兎種の女が地を蹴る。
その瞬間、全員が同時に動いた。
敵陣へ――突っ込む。
「抜ける!」
前方の敵を押し切る。
剣がぶつかり、火花が散る。
「右!」
横から来た敵を、別の獣亞人が叩き伏せる。
「止まるな!」
速度を落とさない。
止まれば囲まれる。
進み続けることでしか、生き残れない。
レオンはその中心で、ただ前を見ていた。
(……近い)
マナの歪みが、濃くなる。
確信に変わる。
「この先だ!」
叫ぶ。
「分かった!」
陣形がさらに鋭くなる。
突撃ではなく、突破。
一点に向けた、刃の塊。
敵の密度が上がる。
明らかに、“守られている”。
「ビンゴだな……!」
兎種の女が歯を剥く。
その目は獲物を捉えたそれだった。
「この奥にいる!」
レオンが言う。
次の瞬間――
空気が、わずかに揺らいだ。
違和感。
マナが、跳ねる。
(来る――)
その直後。
目の前の空間が歪み、敵兵が“現れた”。
転移。
増援。
「チッ……!」
彼女が舌打ちする。
だが、動きは止まらない。
「止まるな!押し切れ!」
叫びと共に、さらに踏み込む。
敵もまた、必死に食い止める。
乱戦の密度が、さらに上がる。
その中で――
レオンは見ていた。
流れを。
歪みの中心を。
(……いた)
ほんの一瞬。
奥の影。
他とは違う、“静かな存在”。
戦っていない。
ただ――魔力を操作している。
「……あいつだ」
低く呟く。
「正面、奥!」
レオンの声に、全員の意識が一点へと収束する。
道をこじ開ける。
たとえ、それが命を削る行為だとしても。
兎種の女が笑った。
「上等だ……!」
その笑みは、戦場のそれだった。
「突っ込むぞ!」
その声を合図に。
一行は、さらに深く――
敵陣の心臓部へと踏み込んだ。




