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ゼルガリア 鐘の音

――ゴォン、ゴォン、と。


低く重い音が、夜の空気を引き裂いた。


一瞬の静寂。


次の瞬間、野営地が一気にざわめく。


「警鐘だ!総員起きろ!」


「敵襲!敵襲だ!」


怒号が飛び交い、足音が重なる。


急務室の扉が乱暴に開かれた。


レオンは反射的に身体を起こす。


「……なんだ?」


隣のベッドで、ユージンも顔を上げていた。


疲労の色は濃いが、その目は完全に覚めている。


「行くぞ」


レオンが短く言う。


ユージンは一瞬だけ躊躇し――頷いた。


二人はそのまま外へ飛び出す。


夜の空気が肌に刺さる。


だが、それ以上に。


目の前の光景が、意識を一気に引き上げた。


「……あれは」


暗闇の向こう。


松明の光に照らされて、無数の影が動いている。


整然とした列。


揺るがない足並み。


「アルケイア軍だ……!」


誰かが叫ぶ。


ゼルガイア兵たちが慌ただしく武器を取る。


だが――


「どうしてこんな近くまで……!」


困惑の声。


本来なら、あり得ない。


見張りはいたはずだ。


接近に気づかない距離ではない。


そのとき。


敵陣の一角で、ひときわ強い光が灯った。


一人の男が、ゆっくりと手を掲げる。


指揮官。


その動きに合わせるように、周囲の兵たちの身体が淡く発光する。


「……なんだ、あれ」


レオンが目を細める。


次の瞬間。


頭の奥に、違和感が走る。


“繋がっている”。


そんな感覚。


「……リンク魔法か」


背後から、ディルクの声。


いつの間にかすぐ後ろに立っていた。


「知覚共有。思考、視界、タイミングを統一するタイプだ」


淡々とした説明。


だが、その目は鋭い。


「合図一つで、全員が同時に魔法を発動できる」


つまり――


「……集団魔法か」


ユージンが低く呟く。


その直後だった。


指揮官が手を振り下ろす。


瞬間。


敵陣が一斉に光を放った。


「――来るぞ!」


轟音。


空気が震える。


無数の魔力が一つに重なり、巨大な奔流となって放たれる。


それはもはや、個人の魔法ではなかった。


“砲撃”だった。


「防御陣形!急げ!」


ゼルガイア兵たちが叫ぶ。


土壁が立ち上がり、盾が構えられる。


即席の陣形。


だが――


「間に合うか……!」


次の瞬間、衝撃が走った。


轟音と共に、防御が弾け飛ぶ。


土壁は砕け、兵士たちが吹き飛ばされる。


悲鳴。


爆ぜる光。


地面が抉れ、土煙が舞い上がる。


「くそっ……!」


誰かが叫ぶ。


だが、終わりではない。


敵陣はすでに次の詠唱に入っている。


リンクされた意識。


ズレはない。


躊躇もない。


ただ、正確に――殺しに来る。


レオンは歯を食いしばる。


視線が、後方へと向く。


そこには――


治療所。


そして、その中にいるユージンたち。


(……ここを抜かれたら終わる)


思考が一瞬で固まる。


足が、自然と前へ出た。



「絶対に守ってみせる」


静かな声だった。


だが、その奥にあるものは明確だった。



再び、敵陣が光る。


二撃目が来る。


今度は、防ぎきれない。


「……なら」


レオンは息を吸う。


空気の流れ。


マナの揺らぎ。


それを“掴む”。


(合わせる)


魔法ではない。


ただ、流れに干渉する。


次の瞬間。


レオンの周囲の空間が、わずかに歪んだ。


迫り来る奔流。


それに対して――


正面から、踏み込む。


「レオン!」


ユージンの叫びが背後から聞こえた。


だが止まらない。


止まる理由がない。


(ここで止める)


そう決めた。


それだけだった。


夜の戦場。


光と轟音の中で――


レオンは、初めて“前線”に立った。


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