ファルガ②
しばしの静寂のあと。
ファルガが、ゆっくりと口を開いた。
「……遠い昔話だ」
誰に向けたわけでもない、低い声。
「魔族と呼ばれた連中はな」
視線が、どこか過去を見るように細められる。
「何も無いところから武器を取り出したり、相手の足元から火柱を出したり……」
淡々とした口調。
だが、その内容は常識から外れていた。
「多種多様な魔法を使い、人間の使う魔法とは違う」
一拍。
「手元で魔法を形成する、ってことをしてなかったらしい」
「……」
レオンの脳裏に、セイルの言葉が蘇る。
――魔族。
――人とは違う“理”の力。
(やっぱり、繋がってる……)
確信に近い何かが、胸の奥で形を持ち始める。
「それが事実だとすると……」
ユージンがゆっくりと言葉を選ぶ。
「魔法の発動原理そのものが違う可能性があるね」
「詳しいことは知らねぇよ」
ファルガは肩をすくめた。
「俺も又聞きだ。昔の話なんてのは、大体が歪んで伝わる」
「……古の大戦については?」
ユージンがさらに踏み込む。
だがファルガは首を振った。
「さあな。そこまでは聞いてねぇ」
「そうか……」
ユージンは小さく息を吐いた。
情報は繋がり始めている。
だが、決定的な“核”が足りない。
その時だった。
「――なら、行くしかありませんね」
レイが静かに言った。
全員の視線が向く。
「エルディア教国」
その名を、はっきりと口にする。
「記録を管理しているのはあそこだ。少なくとも、他よりは真実に近い情報が残っている可能性がある」
「……教国、か」
ユージンが腕を組む。
「確かに、筋は通っている」
「でも、簡単に入れる場所じゃないよね……?」
ミレアが不安げに言う。
「ええ」
レイは頷いた。
「ですが、方法が無いわけでもないです」
その言葉には、どこか含みがあった。
レオンは何も言わず、空を見上げる。
知らないことばかりだ。
だが――
確実に、一歩ずつ近づいている。
「……行くか」
ぽつりと呟いた。
誰に言ったわけでもない。
だが、その意思ははっきりとしていた。
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「おーい、暗くなってきたぞー!」
シンの声が場の空気を戻す。
気づけば、空はすでに茜色に染まっていた。
「ほんとだ……」
「そろそろお開きだな」
アッシュが立ち上がる。
「今日はありがとな」
「こっちこそだ」
ニクスが軽く手を上げる。
リシェルとミレアも、静かに頭を下げた。
「また来いよ!」
シンが笑う。
「今度は負けねぇからな!」
「それはこっちの台詞だ」
軽口が交わされる。
だが、その距離はもう最初とは違っていた。
確かに縮まっている。
確かに繋がっている。
「気をつけて帰れよ」
ファルガが最後に言う。
その声は変わらず穏やかだった。
だが、その奥には――
ほんの僅かに、何かを見定めるような色があった。
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夕焼けの中、レオンたちは歩き出す。
背後で、笑い声が小さく遠ざかっていく。
楽しい時間だった。
だが、それだけじゃ終わらない。
世界は、確実に動いている。
そして――
自分たちも、その中にいる。
レオンは一度だけ振り返る。
そこにはもう、日常の光景があった。
だが次に向かう先は――
きっと、違う。
静かに前を向く。
その目には、迷いはなかった。
――祝賀会は、終わり。
そして物語は、次の段階へと進む。




