ファルガ
「さて、と」
食後の空気を軽く払うように、ファルガが立ち上がった。
「腹も満ちたし、少し動くか」
「お、来たな」
シンがニヤッと笑う。
「どうするよ」
「やるに決まってるだろ」
ニクスが即答する。
アッシュも無言で立ち上がった。
戦う理由なんていらない。
強いやつが目の前にいる。それだけで十分だった。
「……はぁ」
レオンは一度ため息をつく。
呆れたように肩をすくめながら――
次の瞬間には、自然と立ち上がっていた。
「お前もかよ」
シンが笑う。
「別に」
素っ気なく返すが、その目はもう戦いのそれだった。
「まったく……」
ユージンが額を押さえる。
「本当に懲りないね、君たちは」
だがその表情は、どこか諦め半分だった。
「……流石親子だな」
ぽつりと呟く。
「聞こえてるぞ」
ファルガが軽く笑った。
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場所を少し移す。
開けた地面。
簡易的な模擬戦場。
「まとめて来い」
ファルガは、ただそれだけ言った。
構えもない。
隙だらけに見える。
だが――
誰も、軽くは見ていなかった。
「行くぞ!」
最初に動いたのはシンだった。
低い姿勢から一気に踏み込む。
同時に、ニクスとアッシュが左右から挟み込む。
三方向。
完璧な連携。
だが――
「甘ぇな」
その一言と共に。
ファルガの姿が“消えた”。
「なっ――」
次の瞬間、三人の背後に立っている。
風が、遅れて吹いた。
「……っ!」
振り向くより先に、レオンが動く。
剣を振る
だがそれも――
空を切った。
「いい判断だ」
声は、すぐ横。
反射的に距離を取る。
見えているのに、追いつかない。
「なんだよ、これ……!」
ニクスが舌打ちする。
再び突っ込む。
炎を放つ
だが当たらない。
放つ寸前で、もうそこにはいない。
アッシュの斬撃も、シンの連撃も。
すべてが空を切る。
「くそっ……!」
ニクスの苛立ちが、限界に達する。
その瞬間――
「退け!」
魔力が膨れ上がった。
高密度の炎。
明らかに“模擬戦”の域を超えた出力。
「やば――」
誰かがそう呟いた時には、もう遅い。
放たれる。
圧倒的な火力。
直撃すれば、ただでは済まない。
だが――
「……っ!」
その前に、レオンが割り込んだ。
一歩。
踏み込む。
マナが収束する。
――練らない。
ただ、流す。
「っらぁ!」
振り抜いた斬撃が、炎と衝突する。
轟音。
衝撃。
空気が震え、炎が霧散した。
余波が地面を削る。
静寂が落ちた。
「……やりすぎだ」
レオンが低く言う。
「……悪い」
ニクスが歯を食いしばる。
熱がまだ残っている。
だが――それ以上に。
視線が、一点に集まっていた。
ファルガ。
無傷。
まるで最初から何もなかったかのように立っている。
「……なるほど」
ぽつりと、呟いた。
「…シンの言う通りだな」
ゆっくりと、レオンを見る。
「武技とは、また違うな」
「……武技?」
レオンが眉をひそめる。
聞き慣れない言葉。
ファルガは軽く頷いた。
「簡単に言えば、体の中の魔力の使い方だ」
一歩、近づく。
その動きすら、無駄がない。
「魔法は外に出す。だが武技は違う」
胸元を軽く叩く。
「巡らせるんだ。全身に」
「……」
「筋肉、神経、反応。全部を底上げする」
静かな説明だった。
だが、その言葉の裏には確かな実感がある。
「さっきのは、その応用だ」
「……速さか」
レオンが呟く。
「まあな」
ファルガは軽く笑う。
「ただの速さじゃねぇが」
その視線が、もう一度レオンに向く。
「お前のは違う」
「……」
「お前はマナ自体の流れを使ってるな」
核心を突く一言。
レオンの目が、わずかに細くなる。
「面白ぇ」
ファルガは、はっきりと言った。
「人間の技じゃねぇな、それは」
否定ではない。
むしろ――
興味だった。
場の空気が、再び静かに変わる。
ただの模擬戦では、終わらなかった。
何かが――確実に、動き始めていた。




