食事会②
「親父、急に出てくんなって」
「気配消してたわけじゃねぇぞ。お前らが気づかなかっただけだ」
「それが問題なんだよ……」
シンが呆れたようにため息をつく。
そのやり取りに、小さな声が割り込んだ。
「ねえねえ!」
シンの妹が、ぐいっとレオンの袖を引く。
「パパね、すっごい強いんだよ!」
「おい」
「ゴールドランクの剣士でね!国でも有数なんだから!」
「やめろって……」
シンが顔をしかめるが、妹はお構いなしだ。
「みんながすごいって言ってるの!ねー?」
母親も笑いながら頷く。
「まあ、あんたの父ちゃんは昔から目立つからねぇ」
「やめろってば……」
シンは完全に居心地が悪そうだった。
その様子を見て、ファルガが軽く笑う。
「いいじゃねぇか。事実だ」
「自分で言うな!」
即座にツッコミが入る。
一瞬の間のあと、場に笑いが広がった。
さっきまでの張り詰めた空気は、もうどこにもない。
「ほら、まだ残ってるぞ」
ファルガはテーブルに手を伸ばし、残り物の肉をひとつ摘まむ。
「食いながらでいい。少し話しておくか」
その声の調子は、あくまで自然だった。
だが、言葉の中身は――
少しだけ重かった。
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「最近、外はきな臭ぇ」
肉をかじりながら、ファルガは淡々と話し始める。
「自由都市ゼルガイアと、錬成国家アルケイア」
聞き慣れない名に、ユージンがわずかに反応する。
「戦争の話、か」
「ああ。規模がデカい」
ファルガは頷く。
「ゼルガイアはな、種族のるつぼみたいな国だ。人間だけじゃねぇ。亞人族も普通にいる」
「亞人族……」
ミレアが小さく呟く。
「開戦前は、誰もがゼルガイア有利だと思ってた。戦士も魔法使いも揃ってる。戦力の幅が違うからな」
「だが違った、か」
ユージンが静かに言う。
「そういうことだ」
ファルガは視線を少しだけ遠くに向けた。
「アルケイアが出してきたのは、“魔装兵器獣”」
その場の空気が、わずかに変わる。
「魔法と錬成技術の合わせ技だ。人間でも魔物でもねぇ。完全に“作られた戦力”だな」
「……そんなものが」
ユージンの声に、驚きが混じる。
「そいつが戦場に出てから、一気に流れが変わった」
ファルガは淡々と続ける。
「戦争は長引いてる。どっちも決め手に欠けてな」
「長期戦……」
リシェルが小さく呟く。
「で、その影響がこっちにも来てる」
ファルガは最後の一口を飲み込み、指を軽く払った。
「住処を追われた魔物が、流れてきてるんだ」
「……!」
レオンの目がわずかに細くなる。
「数が増えてるのは、そのせいだ」
アッシュが腕を組む。
「最近の討伐任務、確かに多い」
「全部が全部、自然発生じゃねぇってことだ」
ファルガは肩をすくめた。
「人間同士の戦争が、別の場所に歪みを押し付けてる」
静かな言葉だった。
だが、その重みは確かに伝わる。
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レオンは、何も言わなかった。
ただ――
頭の中で、何かが繋がり始めていた。
魔族。
戦争。
そして――今の世界。
すべてが、無関係とは思えなかった。
「ま、暗い話はこのくらいにしとけ」
ふっと空気を戻すように、ファルガが笑う。
「今日は祝賀会なんだろ?」
「あ、そうだったな」
シンが気を取り直したように言う。
「なんか話がでかくなりすぎてたわ」
「お前が呼んだんだろうが」
「細けぇことはいいんだよ」
再び、笑いが起こる。
だが――
その奥に残った違和感だけは、消えなかった。




