食事会
「――できたよー!」
ミレアの声が、場の空気をやわらかく区切った。
その一言で、張り詰めていた気配がふっと緩む。
シンとレオンが距離を取り、ニクスとアッシュもそれぞれ武器を下ろした。
「はー……腹減った」
「同感だ」
アッシュが肩を回しながら笑う。
そこへ、ゆっくりとユージンが歩み寄ってきた。
「君たちね……来て早々、全力でやり合う必要はないだろう?」
やれやれ、といった口調。
だがその手はすでに淡い光を帯びている。
「ほら、じっとして」
「別に平気――」
「いいから」
有無を言わせない声に、ニクスが口を閉じる。
次の瞬間、柔らかな光が四人を包んだ。
筋肉の疲労がすっと引いていく。
「……相変わらず便利だな」
「便利で済ませないでほしいね」
ユージンは軽くため息をついた。
「無茶をする前提で動かないでくれ。回復役にも限界はある」
「悪かったって」
シンが笑って頭をかく。
そんなやり取りの中、テーブルには料理が並べられていく。
焼きたての肉、湯気を立てるスープ、香ばしいパン。
「さあさあ、冷めないうちに食べな!」
シンの母が豪快に手を振る。
それに促されるように、一同は席についた。
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食卓は、想像以上に賑やかだった。
「これうまっ!」
「だろ?うちの自慢だ」
「この香辛料……初めて見るけど美味しいね」
ユージンが興味深そうに味を確かめる。
ミレアは嬉しそうに頷き、リシェルは静かに箸を進めていた。
シンの妹は相変わらずレオンの隣で、じっと観察している。
「……そんなに見るな」
「だって気になるんだもん」
無邪気な返答に、レオンは少しだけ視線を逸らした。
笑い声が絶えない。
争いも、警戒もない。
ただ、同じ時間を囲むだけの空間。
――悪くない。
そう思った。
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やがて食事も落ち着き、皿の上の料理が少なくなってきた頃。
ふと、レオンが口を開いた。
「……一つ、聞きたいことがある」
自然と視線が集まる。
「古の大戦について、何か知ってるか」
一瞬、場が静かになった。
アッシュが腕を組み、少し考える。
「悪いが、俺は知らねぇな」
「俺も。そんな話、聞いたことねぇ」
シンも首を振る。
母親も、妹も同じだった。
「……そうか」
レオンは短く頷く。
やはり簡単には出てこない。
そう思った、その時――
「少しだけなら、聞いたことがあります」
レイが静かに口を開いた。
「本当か?」
「ええ。幼い頃の話ですか……」
彼女は少しだけ視線を落とす。
「母が、エルディア教国の出身でなんです」
「教国……」
ユージンが反応する。
「昔、教会で聞いたことがあるのは。“神に背いた存在”と、“それを討った者たち”の話です」
「魔族か?」
「断言はできませんが。ただ……そういうお話でした」
曖昧な記憶。
だが、確かに何かがある。
レオンはわずかに目を細めた。
――やはり、ただの伝承じゃない。
何かが、隠されている。
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「……なるほどな」
その時だった。
不意に、背後から低い声が落ちた。
振り返るよりも早く、空気が変わる。
誰もが、無意識に息を止めた。
「面白い話をしてるな」
そこに立っていたのは、一人の男だった。
無駄のない体躯。
静かな立ち姿。
だがその存在感は、場の空気を支配するには十分すぎた。
「親父」
シンが軽く手を上げる。
「遅かったな」
男――ファルガは、ゆっくりと視線を動かした。
レオンを見る。
その一瞬だけで、何かを測るように。
「……お前がレオンか」
静かな声。
レオンは、わずかに目を細める。
「…はじめまして」
場の誰もが、言葉を失う。
ただ一人――ファルガだけが、わずかに口元を緩めた。
「そう気構えなくていい」
その一言で。
祝賀の空気は、次の段階へと進んだ。




