↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/249

祭り

 翌朝。


 雲ひとつない空の下、レオンたちは学園の正門前に集まっていた。


 いつもの制服ではなく、それぞれ私服だ。


 少しだけ軽い空気――だが、どこか落ち着かない緊張も混じっている。


「……なんか変な感じだな」


 ニクスが首の後ろをかきながら呟く。


「わかる。戦いに行くわけじゃないのにね」


 ユージンが苦笑した。


 一方で、ミレアは明らかに硬い表情をしていた。


「だ、大丈夫かな……」


 小さく呟いたその手を、リシェルがそっと握る。


「問題ない」


「リシェル……」


「行けばわかる」


 短い言葉だったが、不思議とそれだけで少し落ち着く。


 やがて一行は、学園内の転移施設へと足を運んだ。


 円形の石造りの空間。床には精密な魔法陣が刻まれている。


 受付の職員が顔を上げた。


「行き先を」


 ユージンが一歩前に出る。


「ヴァルグラントの中央地訓練所前でお願いします」


「確認しました。転移を開始します」


 淡い光が足元から立ち上がる。


 一瞬、視界が白に塗り潰され――


 次の瞬間、空気が変わった。


「……っ」


 まず感じたのは、匂いだった。


 焼けた肉の香ばしさ、香辛料の刺激、甘い菓子の匂い。


 そして――


「お、来たな!」


 聞き慣れた声。


 顔を上げると、シンとアッシュが手を振っていた。


「遅ぇぞ!」


「今来たところだ」


 レオンが軽く返す。


 だがその直後、周囲を見回したニクスが目を見開いた。


「……なんだここ」


 そこに広がっていたのは、学園とはまるで違う光景だった。


 石造りの整った街並みではない。


 土の地面に並ぶ簡素な屋台。


 その場で焼かれる肉、鍋で煮込まれる料理、声を張り上げる商人たち。


 人の熱気と、活気。


「すごい……」


 ミレアが思わず呟く。


 ユージンも、興味深そうに周囲を見渡していた。


 ただ一人――


「……」


 レオンは、少しだけ目を細めていた。


 懐かしい。


 村で見た、祭りの風景に似ている。


 あの時と同じように、人が笑っている。


「こっちじゃこれが普通だ」


 隣でアッシュが言う。


「訓練の合間の楽しみってやつだな」


「……悪くないな」


 レオンは小さく答えた。


「だろ?」


 アッシュがニヤッと笑う。


「さ、行こうぜ。もう準備してるはずだ」


 シンが先頭に立ち、一行は歩き出した。


 しばらく進むと、少し開けた場所に出る。


 そこには簡易的なテーブルが並び、既に数人の人影があった。


「おーい、戻ったぞー!」


 シンが声を上げる。


 振り向いた女性が、ぱっと顔を明るくした。


「シン!おかえり!」


 快活な声。


 その隣には、小柄な少女。そして――レイの姿もあった。


「その子たちが友達かい?」


「そーそー」


「よく来たね!さあ、遠慮せず上がりな!」


 気前よく手を振る母親に、レオンたちは一瞬戸惑いながらも頭を下げる。


「お、お邪魔します……」


 そんな中、小さな足音が近づいてきた。


 シンの妹だろうか。


 じっとレオンを見上げると、腰の剣に視線を向ける。


「ねえ」


「……?」


「お兄ちゃんと、どっちが強いの?」


 直球だった。


「……さあな」


 レオンは少しだけ困ったように答える。


 すると後ろからシンが笑った。


「いい質問すんなぁ」


「今度やってみるか?」


「はぁ!?」


 ニクスが食いつく。


 アッシュも口元を吊り上げた。


「面白ぇ。乗るぞ」


「決まりだな」


 レイが静かに笑う。


 一方で――


「……私は手伝う」


 リシェルが料理の方へ向かう。


「わ、私も!」


 ミレアも慌てて後を追った。


 鍋の湯気が立ち上る中、二人は自然と作業に加わっていく。


 その様子を横目に、ユージンはため息をついた。


「まったく……来て早々これかい」


 視線の先では、既に即席の模擬戦の準備が始まっている。


「先に言っとくけど、怪我は自己責任だからね」


「へーへー」


「上等だ」


 シンとレオンが向かい合う。


 ニクスとアッシュも、それぞれ距離を取った。


 空気が、少しだけ張り詰める。


 だが――


「始めるぞ」


 その空気すら、どこか楽しげだった。


 ユージンは呆れたように肩をすくめる。


「……やれやれ」


 賑やかな声と、鉄のぶつかる音。


 笑いと熱気が混ざり合うその光景は――


 まるで、小さな祭りのようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。