祭り
翌朝。
雲ひとつない空の下、レオンたちは学園の正門前に集まっていた。
いつもの制服ではなく、それぞれ私服だ。
少しだけ軽い空気――だが、どこか落ち着かない緊張も混じっている。
「……なんか変な感じだな」
ニクスが首の後ろをかきながら呟く。
「わかる。戦いに行くわけじゃないのにね」
ユージンが苦笑した。
一方で、ミレアは明らかに硬い表情をしていた。
「だ、大丈夫かな……」
小さく呟いたその手を、リシェルがそっと握る。
「問題ない」
「リシェル……」
「行けばわかる」
短い言葉だったが、不思議とそれだけで少し落ち着く。
やがて一行は、学園内の転移施設へと足を運んだ。
円形の石造りの空間。床には精密な魔法陣が刻まれている。
受付の職員が顔を上げた。
「行き先を」
ユージンが一歩前に出る。
「ヴァルグラントの中央地訓練所前でお願いします」
「確認しました。転移を開始します」
淡い光が足元から立ち上がる。
一瞬、視界が白に塗り潰され――
次の瞬間、空気が変わった。
「……っ」
まず感じたのは、匂いだった。
焼けた肉の香ばしさ、香辛料の刺激、甘い菓子の匂い。
そして――
「お、来たな!」
聞き慣れた声。
顔を上げると、シンとアッシュが手を振っていた。
「遅ぇぞ!」
「今来たところだ」
レオンが軽く返す。
だがその直後、周囲を見回したニクスが目を見開いた。
「……なんだここ」
そこに広がっていたのは、学園とはまるで違う光景だった。
石造りの整った街並みではない。
土の地面に並ぶ簡素な屋台。
その場で焼かれる肉、鍋で煮込まれる料理、声を張り上げる商人たち。
人の熱気と、活気。
「すごい……」
ミレアが思わず呟く。
ユージンも、興味深そうに周囲を見渡していた。
ただ一人――
「……」
レオンは、少しだけ目を細めていた。
懐かしい。
村で見た、祭りの風景に似ている。
あの時と同じように、人が笑っている。
「こっちじゃこれが普通だ」
隣でアッシュが言う。
「訓練の合間の楽しみってやつだな」
「……悪くないな」
レオンは小さく答えた。
「だろ?」
アッシュがニヤッと笑う。
「さ、行こうぜ。もう準備してるはずだ」
シンが先頭に立ち、一行は歩き出した。
しばらく進むと、少し開けた場所に出る。
そこには簡易的なテーブルが並び、既に数人の人影があった。
「おーい、戻ったぞー!」
シンが声を上げる。
振り向いた女性が、ぱっと顔を明るくした。
「シン!おかえり!」
快活な声。
その隣には、小柄な少女。そして――レイの姿もあった。
「その子たちが友達かい?」
「そーそー」
「よく来たね!さあ、遠慮せず上がりな!」
気前よく手を振る母親に、レオンたちは一瞬戸惑いながらも頭を下げる。
「お、お邪魔します……」
そんな中、小さな足音が近づいてきた。
シンの妹だろうか。
じっとレオンを見上げると、腰の剣に視線を向ける。
「ねえ」
「……?」
「お兄ちゃんと、どっちが強いの?」
直球だった。
「……さあな」
レオンは少しだけ困ったように答える。
すると後ろからシンが笑った。
「いい質問すんなぁ」
「今度やってみるか?」
「はぁ!?」
ニクスが食いつく。
アッシュも口元を吊り上げた。
「面白ぇ。乗るぞ」
「決まりだな」
レイが静かに笑う。
一方で――
「……私は手伝う」
リシェルが料理の方へ向かう。
「わ、私も!」
ミレアも慌てて後を追った。
鍋の湯気が立ち上る中、二人は自然と作業に加わっていく。
その様子を横目に、ユージンはため息をついた。
「まったく……来て早々これかい」
視線の先では、既に即席の模擬戦の準備が始まっている。
「先に言っとくけど、怪我は自己責任だからね」
「へーへー」
「上等だ」
シンとレオンが向かい合う。
ニクスとアッシュも、それぞれ距離を取った。
空気が、少しだけ張り詰める。
だが――
「始めるぞ」
その空気すら、どこか楽しげだった。
ユージンは呆れたように肩をすくめる。
「……やれやれ」
賑やかな声と、鉄のぶつかる音。
笑いと熱気が混ざり合うその光景は――
まるで、小さな祭りのようだった。




