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ヴァルグラントへの招待

 昼下がりの陽光が、学園の庭をやわらかく照らしていた。


 石畳のベンチに腰掛けながら、レオンはぼんやりと空を見上げていた。


 青い。


 セイルの言葉を思い出す


「……古の大戦、か」


 ぽつりと呟く。


 向かいに座るユージンが、軽く眼鏡の位置を直した。


「記録は断片的すぎるね。残っている文献も、ほとんどが後世の解釈だ」


「魔族についても、はっきりした記述はない」


 リシェルが淡々と続ける。


 いつも通りの無表情。けれど、その視線はどこか思考に沈んでいた。


「ただ“敵だった”としか書かれていない。理由も、経緯も、曖昧」


「……手がかりになる様な物はないか…」


 レオンの言葉に、ユージンは小さく苦笑した。


「君と魔族との接点なんて言うほどある様には思えないけどなぁ…」


 短い沈黙が落ちる。


 風が草木を揺らす音だけが、やけに耳に残った。


 ――本当に、それだけなのか。


 セイルの言葉が、頭の奥で引っかかっている。


「よっ」


 不意に、軽い声が空気を切り裂いた。


 顔を上げると、シンが手をひらひらと振りながら近づいてくる。その後ろには、レイの姿もあった。


「こんなとこで難しい顔してんじゃん。らしくねーぞ、レオン」


「別に」


「出たよ、それ」


 シンは笑いながら、空いているベンチに腰を下ろした。


 レイは少し離れた位置に立ち、三人を静かに見渡す。


「ちょうどいいところだったな」


「ん?」


 シンが身を乗り出す。


「祝賀会、やろうと思うんだけどさ」


「祝賀会?」


 ユージンが聞き返すと、シンはニッと笑った。


「今回の件、無事終わっただろ? だから打ち上げ。つーか、ただの飲み食いだけどな」


「場所はヴァルグラントだ」


 レイが補足する。


「訓練施設の一部を借ります。大したものではないが、気兼ねは不要ですよ」


 その言葉に、三人はわずかに顔を見合わせた。


 ヴァルグラント。


 多くの剣士が集まる街


 学園内で聞く評判は、決して穏やかなものではない。


「……俺たちが行って、大丈夫なのか?」


 レオンが率直に問う。


 シンは一瞬きょとんとした後、ああ、と笑った。


「気にしてんの? ああいうの」


「“ああいうの”で済ませられる問題でもないと思うけどね」


 ユージンが肩をすくめる。


 レイが静かに口を開いた。


「確かに、生徒間の関係は良好とは言えない」


「だろうな」


「だが、それは“剣士職を見下す一部の魔法生徒”に対する反発が大きい」


 淡々とした説明だった。


「ヴァルグラントにも魔法使いは存在する。少数だが、排斥されているわけではない」


「……そうなのか?」


「少なくとも、私の家は違う」


 レイの言葉に、シンが肩をすくめた。


「うちもだな。親父とか普通にそういうの気にしねぇし」


 どこか誇らしげな口調だった。


「だからまあ、来いよ。別に堅苦しいもんじゃねぇしさ」


 シンは軽く笑って言う。


 その無邪気さが、逆に嘘ではないと感じさせた。


 レオンは少しだけ考え込む。


 未知の場所。未知の空気。


 だが――


「……ニクスとミレアにも声かける」


「お、いいね」


「来るかはわからないが」


「そりゃそーだろ。でも誘わなきゃ始まんねーし」


 シンは満足そうに頷いた。


 レイもわずかに目を細める。


「決まりですね」


 風が、再び吹いた。


 さっきまでとは違う、少しだけ温度のある風。


 レオンは空を見上げる。


 青は変わらない。


 だが、その先に広がるものは――


 もう、同じではない気がしていた。


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