失踪事件 帰還
帰還
地下最深部。
破壊の痕が残るその場に、静寂が戻っていた。
「……行こう」
レオンが短く言う。
誰も異論はなかった。
ユージンはアッシュの様子を確認し、ゆっくりと立ち上がらせる。
「歩けるか」
「……なんとかね」
まだ万全ではないが、意識ははっきりしている。
「無理はするな」
それだけ言って、ユージンは前を見る。
レオンが先頭に立つ。
その背を追うように、一行は歩き出した。
崩れかけた通路。
戦闘の痕跡。
それらを越えて。
上へ――。
重い扉を押し開ける。
エントランスに出た瞬間。
「……おかえり」
低い声。
リシェルだった。
壁にもたれかかるように立っている。
その傍ら――
シンが倒れている。
「シン!」
ユージンがすぐに駆け寄る。
呼吸はある。
だが意識がない。
「……無茶したな」
ユージンが眉をひそめる。
手をかざす。
「――回復」
柔らかな光がシンを包む。
傷が塞がり、呼吸が整う。
「……ん……」
わずかに、瞼が動く。
「…まだ安静にした方がいい」
ユージンが短く言う。
リシェルが小さく頷く。
「ベッジは仕留めた」
淡々とした報告。
だがその声には、僅かな疲労が混じっていた。
「そっちは」
視線がレオンへ向く。
「逃げられた」
短い答え。
それで十分だった。
リシェルはそれ以上は聞かない。
「……そう」
ただ、それだけ返す。
状況は理解した。
その時。
階段の方から足音が響く。
複数。
警戒が走る。
だが――
「下にいたか」
聞き慣れた声。
ディルクだった。
その後ろに、
ニクス。
ミレア。
レイ。
そして数名の正規軍。
さらに――
拘束された男たち。
ザード。
「無事か」
ディルクが全員を見渡す。
一人ひとり、確認するように。
その視線は厳しいが、どこか安堵が混じっている。
「……全員、生きてるな」
小さく息を吐く。
ニクスが腕を組みながらレオンを見る。
「……心配させんじゃねぇよ」
「…わるい」
レオンが短く答える。
ミレアは周囲を見渡しながら状況を整理している。
「レオンゴメンね……私のせいで…」
「別にミレアが謝ることなんて無いよ」
レイも静かに頷く。
「報告は帰ってからでいい」
ディルクが言う。
「ここは長居する場所じゃない」
的確な判断。
誰も反論しない。
もう戦いは終わっている。
だが、安全ではない。
「動ける者は、動けない者を支えろ」
指示が飛ぶ。
正規軍がザード達を連行する。
ユージンはシンの様子を見ながら肩を貸す。
アッシュも、レオンの近くで歩き出す。
出口へ向かう一行。
その中で。
レオンは、少しだけ後ろを振り返った。
地下へと続く暗闇。
そこに残るのは――
戦いの痕と、消えた敵の影。
「……」
何も言わない。
だがその視線には、確かな意思があった。
――次は逃がさない。
そして前を見る。
仲間たちがいる。
守るべきものがある。
それだけで、十分だった。
外の光が差し込む。
長い戦いの終わり。
誰もが疲弊している。
だが――
全員が、生きている。
「帰るぞ」
ディルクの一言。
それが合図だった。
一行は、学園へと帰還する。
それぞれの傷と、得たものを抱えて。
静かに。
だが確かに。
次へ進むために――。




