失踪事件 決着
静寂が落ちる。
レオンとセイル。
互いに一歩も動かない。
だが――
空気が、変わっていた。
ぴし、と。
床に微かな亀裂が走る。
レオンの足元から。
マナが、溢れていた。
「……」
レオンは何も言わない。
ただ、立っているだけ。
だがその全身から。
“圧”が滲み出ていた。
セイルの笑みが、わずかに消える。
(……なんだ、これは)
知っているはずの感覚。
魔力の気配。
だが、違う。
練られていない。
構築されてもいない。
ただ――
“ある”。
それだけで、成立している。
(ふざけるなよ……)
思考が一瞬、止まる。
その刹那。
「――ぶっ倒す」
低い声。
押し殺したような。
だが、確かに滲む。
怒り。
レオンの視線が、アッシュへと一瞬だけ向く。
血。
崩れた体勢。
浅い呼吸。
それだけで、十分だった。
「……」
次にセイルを見る。
その瞳に。
明確な“敵意”が宿る。
マナが、膨れ上がる。
空気が震える。
床の石が、軋む。
「……なるほど」
セイルが一歩、下がる。
無意識に。
(危険だ)
理屈ではない。
経験が告げていた。
目の前の存在は――
今、この瞬間。
“触れてはいけない類”だと。
レオンが、踏み込む。
消えた。
そう錯覚するほどの加速。
「――ッ!」
セイルが横へ跳ぶ。
直後。
レオンの拳が、空を裂く。
轟音。
衝撃が、遅れて広がる。
壁が、抉れる。
「……はは」
セイルが笑う。
だが、その額には汗。
(直撃していたら、終わっていたな)
軽くナイフを構える。
距離を取る。
視線を外さない。
だが――
「逃がすかよ!」
すぐ背後。
「――ッ!?」
振り向く。
既にいる。
レオンが。
マナを纏った拳が、振り抜かれる。
セイルは咄嗟に身を捻る。
だが避けきれない。
肩を掠める。
「ぐっ……!」
骨が軋む。
吹き飛ぶ。
床を滑る。
(馬鹿げている……!)
即座に体勢を立て直す。
だが距離が足りない。
追いつかれる。
確信する。
(勝てない)
迷いはなかった。
この場で戦い続ける意味はない。
目的は他にもある。
ならば――
捨てるべきだ。
ここは。
レオンが歩く。
一歩。
また一歩。
止まらない。
その手に、マナが集まる。
収束。
圧縮。
ただ纏うだけだったそれが。
初めて、“形”を持つ。
拳へ。
集中する。
空気が歪む。
「……終わりだ」
低く告げる。
踏み込む。
拳を、突き出す。
直線。
ただそれだけ。
だが。
それは“暴力”そのものだった。
「――ちっ!」
セイルが舌打ちする。
同時に。
足元へ視線を落とす。
次の瞬間。
姿が、揺らぐ。
転移。
わずかな遅延。
だが間に合う。
レオンの拳が、空を打つ。
――ドンッ!!
爆ぜる。
衝撃が、一直線に走る。
背後の壁を貫き。
さらに奥まで抉り取る。
遅れて。
轟音が地下に響いた。
少し離れた位置。
空間が歪む。
セイルが現れる。
肩を押さえ、息を吐く。
「……化け物が」
苦く笑う。
血が滴る。
だが目は、死んでいない。
「収穫はあった」
レオンを見る。
興味。
警戒。
そして――僅かな愉悦。
「次は、もう少し準備して来るとしよう」
指を鳴らす。
再び、空間が揺らぐ。
「それまで死ぬなよ」
最後にそう言い残し――
消えた。
静寂が戻る。
レオンの拳が、ゆっくりと下がる。
マナが、霧散する。
その場に残るのは――
破壊の痕跡だけ。
「……逃げたか」
短く呟く。
振り返る。
ユージンとアッシュ。
怒りは、まだ消えていない。
だが。
それ以上に。
確かめるように、視線を向ける。




