失踪事件 幻影の檻
屋上。
風が抜ける。
だが――ザードの姿はない。
「……来ねぇな」
ニクスが低く呟く。
「動けないだけ」
ミレアが即答する。
目を閉じ、集中している。
「位置は……分かる」
だが、それ以上がない。
“そこにいる”だけ。
姿は見えない。
攻撃のタイミングも読めない。
「……厄介だな」
レイが剣を構える。
その周囲。
伏兵が動く。
そして――
同じ姿が増える。
「残像……!」
ニクスが舌打ちする。
レイが踏み込む。
一閃。
斬る。
だが。
「……手応えがない」
空を切る。
残像。
次の瞬間、別方向から気配。
即座に振り向く。
斬る。
また空振り。
「くそっ……!」
ニクスが距離を取り、火球を放つ。
「当たれ……!」
だが――
すり抜ける。
どれも本物ではない。
「数が多すぎる……!」
連続で撃つ。
だが、当たらない。
無駄撃ち。
魔力だけが削られていく。
「……ミレアさん、お下がりください」
レイが位置を調整する。
常にミレアの前へ。
剣で牽制しながら、距離を詰める。
「本体を引きずり出します。」
短く言う。
だが――
ザードは出てこない。
徹底して隠れる。
(……時間を使わせてる)
リシェルのいない今、分析は自分が担う。
(消耗戦……)
そして、それは向こうの得意分野。
「……ニクス」
ミレアが小さく呼ぶ。
ニクスが振り向く。
息が荒い。
だが、目はまだ死んでいない。
「……分かってる」
短く言う。
視線を前に戻す。
拳を握る。
「まとめて焼く」
その一言。
レイが一瞬だけ目を細める。
「…やれるのですか?」
「やるしかねぇだろ」
笑う。
無理を押し通す顔。
「――焼き払え」
ニクスが魔力を解放する。
足元から炎が広がる。
渦を巻く。
そして――
一気に薙ぎ払う。
広範囲。
逃げ場を潰す炎。
――ゴォォォッ!!
空気が焼ける。
残像が、消える。
幻が崩れる。
「今!」
ミレアが叫ぶ。
レイが動く。
一瞬で距離を詰める。
本物。
その“ズレ”を見逃さない。
振る。
一閃。
伏兵が倒れる。
続けて、もう一人。
間髪入れずに斬り伏せる。
「くたばれー!」
ニクスも動く。
残った敵へ火球を叩き込む。
直撃。
爆ぜる。
最後の伏兵が倒れる。
静寂。
炎の残り香。
「……やった、か」
ニクスが膝をつく。
魔力を使い切った。
息が荒い。
レイも剣を下ろす。
周囲を確認する。
敵の気配は――
「……消えた」
その瞬間。
「――甘い」
声。
背後。
ミレアのすぐ後ろ。
「……っ!」
反応が遅れる。
ザード。
完全な死角。
ナイフが振り下ろされる。
「ミレアさん!」
レイが叫ぶ。
だが距離がある。
ニクスは動けない。
間に合わない。
ミレアは――
思わず、目を閉じた。
――ガキンッ!!
硬質な音。
金属と何かがぶつかる。
ミレアが目を開ける。
そこにあったのは――
巨大な骨の壁。
スカルリザード。
その腕が、ナイフを受け止めていた。
「……何だと」
ザードがわずかに驚く。
次の瞬間。
「遅くなったな」
低い声。
その背後に立つ男。
ディルク。
サンダーバードが上空を旋回する。
雷光が走る。
空気が変わる。
「ここからは――」
ディルクが一歩前に出る。
「大人の仕事だ」
静かに言い切る。
ザードが笑う。
「……あん時の奴だな」
だが、その余裕は長くは続かない。
戦力差が、覆る。
守られた命。
繋がった戦線。




