失踪事件 内部突破
■ エントランス
薄暗い廊下を抜ける。
石造りの階段を降りるたび、空気が重くなる。
やがて――
広い空間に出た。
洋館のエントランス。
高い天井。
中央に続く大階段。
そして、その前に――
一人、立っていた。
「……ようやく来たか」
ベッジ。
ゆっくりとこちらを見据える。
逃げる気配はない。
むしろ――待っていた。
「……厄介だ」
リシェルが小さく言う。
ユージンとアッシュにだけ聞こえる声で。
「あいつの魔法はこちらの魔法を反射する」
「昼間にいた氷を跳ね返した奴だな」
ユージンが確認する。
「そう」
短く頷く。
「威力そのまま、もしくはそれ以上で返す可能性がある」
アッシュが舌打ちする。
「面倒な奴だな」
「正面から魔法を撃つのは愚策」
リシェルが続ける。
そのやり取りを見ていたベッジが、笑った。
「……小声で作戦会議か?」
一歩、前へ出る。
「ガキの魔法ごっこに付き合う気はねぇよ」
肩を鳴らす。
「来いよ」
挑発。
「まとめて相手してやる」
その瞬間。
シンが動いた。
音もなく。
一瞬で距離を詰める。
「――なっ」
ベッジの反応が遅れる。
懐に潜り込む。
視線が交差する。
シンが笑う。
「撃ち返してみな」
次の瞬間――
蹴り。
全体重を乗せた一撃。
腹部へ直撃。
――ドンッ!!
鈍い衝撃音。
ベッジの体が後方へ弾かれる。
「……ぐっ……!」
壁に叩きつけられる。
初めて、明確なダメージ。
「……なるほどな」
ベッジがゆっくりと立ち上がる。
口元を歪める。
「そう来るか」
その目が、シンを捉える。
同時に――
「ここは任せて」
リシェルが前に出る。
静かに言う。
「この相手は足止めが最適解」
シンが肩を回す。
「いいね」
軽く笑う。
「ちょうど体も温まってきた」
ユージンを見る。
「レオンを頼んだぜ!」
その言葉に迷いはない。
アッシュがニヤリと笑う。
「任せろ」
ユージンが頷く。
ユージンが一瞬だけ振り返る。
リシェルとシン。
そして――ベッジ。
状況は不利。
だが。
「……行くぞ」
決断。
足を踏み出す。
アッシュと共に。
奥へ。
地下へ続く通路へと。
残された三人。
リシェルとシン。
そしてベッジ。
「いいのか?」
ベッジが笑う。
「仲間を置いていって」
シンが肩をすくめる。
「逆だろ」
軽く言う。
「任されたんだよ」
リシェルが静かに魔力を練る。
冷気が周囲に広がる。
「……時間稼ぎ」
短く宣言する。
「十分」
ベッジが拳を鳴らす。
「その余裕、どこまで持つか試してやる」
地下へ進む者。
ここで食い止める者。
戦場は、さらに分かれた。




