失踪事件 洋館突入
■ 到達
森を抜けた先。
月明かりに照らされた洋館が、静かに佇んでいた。
古びた外壁。
だが手入れはされている。
“使われている建物”だと分かる。
「……ここか」
アッシュが低く呟く。
「間違いない」
ミレアが頷く。
マーキングの感覚が、確かに“中”を指している。
ユージンが建物全体を見渡す。
「正面は論外だな」
「同意」
リシェルが即答する。
「罠、迎撃、どれもあり得る」
「なら――」
ユージンが視線を上げる。
「屋上から入る」
「任せて」
リシェルが前に出る。
手をかざす。
「――氷結」
地面から氷がせり上がる。
屋上へと続く“梯子”。
「行くぞ」
シンが先頭に立つ。
軽やかに駆け上がる。
続いてユージン、アッシュ。
最後にレイとミレア。
音を最小限に抑え、屋上へ到達する。
そこには――
扉が一つ。
静かに佇んでいた。
「……行くか」
シンが手をかける。
その瞬間。
「待って!」
ミレアの声。
反射的に、シンの背中を引く。
「うおっ――!?」
体勢が崩れる。
上体が大きく反る。
その“直後”。
――ドンッ!!
扉の中心から、刃が突き出た。
鋭いナイフ。
一直線に。
さっきまでシンがいた位置へ。
「……っぶねぇ……!」
シンが距離を取る。
心臓が早鐘を打つ。
「……完全に殺しに来てるな」
アッシュが吐き捨てる。
次の瞬間。
扉が――
煙のように崩れた。
視界が開ける。
その奥。
立っていたのは――
ザード。
そして、複数の伏兵。
「ようこそ」
ザードが薄く笑う。
「待ってたよ」
空気が一変する。
次の瞬間。
ザードの姿が“消えた”。
「……来るぞ!」
ユージンが叫ぶ。
全員が構える。
視線が揺れる。
気配が掴めない。
だが――
「……ニクス」
ミレアが静かに言う。
目を閉じ、集中する。
「右、三歩前」
一瞬の間。
ニクスは迷わない。
「――当てる!」
火球を放つ。
指定された位置へ。
その瞬間。
――ボンッ!!
爆ぜる炎。
そして。
「……ちっ」
ザードが姿を現す。
わずかに後退する。
「見えてるのかよ……!」
「完全じゃない」
ミレアが答える。
「でも、“そこにいる”のは分かる」
ミレアが振り返る。
ユージンたちを見る。
「……ザードがここにいる」
静かに言う。
「なら、私の役目はここまで」
空気が止まる。
「先に行って」
「……ミレア」
ユージンが言いかける。
だが。
「私はここを抑える」
はっきりと言い切る。
ニクスが一歩前に出る。
「俺も残る」
迷いはない。
「借りを返してねぇからな」
ザードを睨む。
レイが静かに続く。
「…ミレアさんは私がお守りします。」
剣を構える。
「ここはお任せ下さい!」
それで決まりだった。
ユージンが一瞬だけ目を閉じる。
そして。
「……任せる」
短く言う。
アッシュが頷く。
「頼んだぞ」
シンが笑う。
「先導は任せろ」
軽く手を振る。
そして――
「行くぞ!」
シンを先頭に、三人が建物内へ突入する。
足音が遠ざかる。
残されたのは――
ミレア、ニクス、レイ。
そしてザードと伏兵。
「いいのか?」
ザードが笑う。
「戦力を分けて」
ミレアが静かに答える。
「問題ない」
その目は、揺れていなかった。
それぞれの戦場。
それぞれの役割。
そして――
その先にいる、一人の仲間。




