剣士合同訓練 帰還
学園に戻った頃には、すでに夜の帳が降りていた。
訓練帰りの生徒たちが散り、校舎の明かりだけが静かに灯っている。
「……報告だけ済ませよう」
ユージンの言葉に、レオンは頷いた。
二人はそのまま教官棟へ向かう。
■ 報告
扉を叩く。
「入れ」
短い声。
中にいたのはディルクだった。
「戻ったか」
視線が二人を一瞥する。
「状況を報告しろ」
ユージンが一歩前に出る。
「外縁部にて、タイラントリザードと遭遇。討伐済みです」
「……タイラントリザード?」
ディルクの眉がわずかに動く。
「本来の生息域から外れている」
「はい」
ユージンは続ける。
「個体の状態に異常は見られませんでしたが、出現位置が不自然です」
短く、要点だけを述べる。
ディルクは黙って聞いていた。
「他班は?」
「軽微な交戦のみ。大きな被害はありません」
「……そうか」
沈黙が落ちる。
ディルクは腕を組み、ゆっくりと息を吐いた。
「昨日のランカンスロープに続いて、今日のタイラントリザードか」
低く呟く。
「偶然にしては出来すぎているな」
視線がわずかに鋭くなる。
「生態系が狂い始めている……」
独り言のようだった。
「…一つ、仮説があります」
ユージンが静かに口を開く。
ディルクが視線を向ける。
「言ってみろ」
「戦争の影響です」
短く、しかしはっきりと。
「各国の衝突により、環境そのものが変化している可能性があります」
言葉を選びながら続ける。
「土地の荒廃、マナの流動、魔物の縄張りの崩壊」
「……結果として、生息域がズレるか」
「はい」
ユージンは頷く。
「本来交わらないはずの種が接触し、競争や淘汰が起きている」
「その余波が外縁部まで来ている、と」
「現時点では推測に過ぎませんが」
静かなやり取り。
だがその内容は重い。
ディルクはしばらく考え込む。
「……あり得る話だ」
ぽつりと認める。
「戦争は人間だけのものではない、か」
低く呟く。
部屋に、重い空気が満ちた。
その会話を――
レオンは黙って聞いていた。
(……戦争)
その言葉。
胸の奥に、引っかかる。
(生息域が変わる……)
ふと。
脳裏に浮かぶ。
焼けた村。
崩れた家。
そして――
あの日、現れた“異常な魔物”。
本来、あの場所にいるはずのない存在。
(……同じ、か)
静かに、思う。
あれも。
ただの偶然ではなかったのかもしれない。
理由がある。
原因がある。
そして――
それは今も続いている。
レオンはわずかに目を伏せた。
「報告は以上か」
ディルクの声。
「はい」
ユージンが答える。
「ご苦労だった。今日は休め」
それだけ告げる。
二人は軽く頭を下げ、部屋を出た。
廊下。
静かな夜。
「……どう思う?」
ユージンが小さく問う。
レオンは少しだけ間を置く。
「……分からない」
正直な言葉。
だが。
「でも」
歩き出す。
「多分、関係ある」
それだけ言う。
ユージンは何も返さない。
ただ、同じ方向を見ていた。
戦争。
変わり始めた世界。
そして、まだ見えない“何か”。
それらは確実に――
レオンたちのすぐ側まで来ていた。




