剣士合同訓練 奇襲
■ 森への進行
班分けの後、簡単な指示だけが下された。
「外縁部の森で実地訓練を行う。魔物との遭遇も想定しろ」
ディルクの言葉はそれだけだった。
レオンたちの班は、他の班と一定の距離を保ちながら森へ入る。
湿った土の匂い。
木々の隙間から差し込む光が、まだらに地面を照らしている。
隊列は自然と決まっていた。
前方――アッシュ。
中衛――レイとシン。
後方――ユージンとレオン。
「……チッ」
小さな舌打ち。
アッシュは振り返らずに言い捨てる。
「足手まといは後ろで大人しくしてろ」
明確な敵意。
レオンは無言。
代わりにユージンが口を開いた。
「状況に応じて配置は変えるべきだ。固定は合理的ではない」
「は?」
アッシュが振り返る。
「魔物が出たらどうすんだ。前に出てくんのか? そいつが」
顎でレオンを指す。
「必要ならな」
ユージンは一切揺れない。
「君の視界外の攻撃に対処できる保証はない」
「……言ってくれるじゃねぇか」
空気が軋む。
その間に――
「まあまあ」
ひょい、とシンが間に入る。
「ケンカしてる場合じゃないって」
軽い調子。
だがその目は、ちゃんと周囲を警戒している。
「ほら、こういうとこで足並み崩れるのが一番危ないし?」
レイも静かに続ける。
「同意する。感情より任務を優先すべきだ」
短い沈黙。
「……チッ」
アッシュはそれ以上言わず、再び前を向いた。
だが納得していないのは明らかだった。
■ すれ違い
しばらく進む。
魔物の気配はない。
だが――
妙な違和感があった。
(……静かすぎる)
レオンは足を止める。
「どうした?」
ユージンが小さく問う。
「……何かおかしい」
「何がだ」
アッシュが苛立った声を投げる。
「妙に静かだな」
「それのどこが問題だ」
「“いなさすぎる”」
その瞬間。
空気が変わった。
――ザッ
微かな音。
だが反応したのはレオンだけだった。
「シン、下がれ」
「え?」
次の瞬間――
木陰から影が弾けた。
牙。
爪。
一直線にシンへ飛びかかる。
「――ッ!?」
反応が一瞬遅れる。
間に合わない。
その瞬間。
レオンが動いた。
踏み込み。
身体をねじ込み、割り込む。
「ぐっ……!」
鈍い衝撃。
魔物の爪がレオンの肩を抉る。
血が飛ぶ。
「レオン!?」
ユージンの声。
だがレオンは止まらない。
そのまま腕を掴み、引き寄せる。
至近距離。
振り抜く。
――斬撃。
刃にマナが“乗る”。
魔物の体が弾け、吹き飛ぶ。
地面に転がり、動かなくなった。
静寂。
「……は?」
シンが呆然と立っていた。
今の一瞬。
何が起きたのか、理解が追いついていない。
「お前……」
アッシュも眉をひそめる。
レオンは何も言わず、肩の傷を押さえる。
血は出ているが、致命傷ではない。
「……無茶をするな」
ユージンがすぐに回復魔法を展開する。
淡い光が傷を包む。
「大丈夫だ…大した傷じゃない」
「問題ある。判断が早すぎる」
「遅いよりマシだ」
「……そういう問題ではない」
小さく息を吐くユージン。
だがその手は止まらない。
そのやり取りを――
シンはじっと見ていた。
「……なあ」
ぽつりと呟く。
「なんで庇った?」
レオンは一瞬だけ視線を向ける。
「近かったからだ」
「それだけ?」
「ああ」
迷いのない返答。
シンは、数秒黙る。
そして――
「……そっか 助かった」
ふっと笑った。
「ありがとな」
軽い調子。
でもその言葉は、さっきまでとは少し違っていた。
「悪い奴じゃなさそうだな、お前」
その一言。
空気がわずかに変わる。
「……チッ」
アッシュが舌打ちする。
「たまたまだろ」
「いやーどうかな」
シンは肩をすくめる。
「少なくとも、見捨てるタイプじゃないってのは分かったし」
ちら、とレオンを見る。
「そういう奴、嫌いじゃないぜ」
レイも静かに口を開く。
「感謝します」
「…どうやら他の方々とは違う様ですね」
アッシュは何も言わない。
だが――
さっきまでの“完全な拒絶”ではなくなっていた。
その時。
地面が、わずかに震えた。
「……おい」
アッシュが低く言う。
「今の、感じたか」
レイが頷く。
「大型の魔物の様ですね」
ユージンも周囲を見渡す。
「しかも、近い」
森の奥。
空気が重くなる。
レオンはゆっくりと顔を上げた。
(……来る)
次の瞬間――
遠くで木々がなぎ倒される音が響いた。
地面を踏み砕く、重い足音。
圧。
それは明らかに、さっきの魔物とは“格が違った”。
シンが小さく笑う。
「……マジかよ」
だがその目は、完全に戦闘態勢だった。
アッシュが剣を構える。
「ちょうどいい」
低く呟く。
「実力の程を見せてもらおうか」
その視線は――レオンに向いていた。
レオンも、静かに構える。
逃げる気はない。
ユージンが一歩前に出る。
「全員、散開準備。来るぞ」
次の瞬間――
森の奥から、巨大な影が姿を現した。




